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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモとダイヤモンドの女王

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 1907年11月3日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 三人はダイヤモンドの洞窟に来ています。途中、洞窟内を流れる川にさしかかり、川の向こうに新たな洞窟の入口があって、そこまで飛び石を渡ってこうとするところです。

 

  「大変だな、こんな小さな石を渡らなくちゃならねえとは」「そうだね...あっ、転んでる!」。インプが派手に転んでます。飛び石はブリリアントカットされたダイヤモンドで、なんとなくすべりそうですね。ダイヤモンド触ったことないですけど。

 

 水面は幾筋もの描線によって表現されています。水の流れが飛び石をよけて進んでる感じとか、洞窟の入口が水面に映ってるところとか、よくわかりますね。水の色も涼やかで、洞窟内の澄んだ雰囲気が伝わってきます。

 

 水に落ちてしまったインプを見て、フリップは「はっ、立ち方がわかんないようだな」とバカにしてますね。ニモは「すべったの? 気をつけてよ!」と心配してます。

 

 しかし次のコマではフリップが足をすべらせています。「うわ! おれもか!」「大丈夫? 立てる?」。

 

 フリップは飛び石にしがみつきながら、「おい、笑いごとじゃねえぞ」と不機嫌ですね。ニモにバカにされたと思ったのでしょう。ニモは「笑ってないよ、インプににっこりしたんだよ」と返します。インプが無事だったからほっとしたのかもしれないですね。

 

 次のコマではニモが転んでいます。さっそくフリップが「今度はおまえが自分を笑う番だぞ」と言ってますね。フリップは水に落ちてるのに、葉巻を口からはなさないのはすごいです。

 

 というわけで一行はぜんぜん前に進めず、いちばん下のコマまで来てしまいました。洞窟の入口に女性がいますね。「おっ、ダイヤモンドの女王だ!」「ぼくたちを探しに、宮殿から来てくれたんだ!」と、フリップもニモもこの人に気づいていて、しかも飲み込みが早い...。あれ、ダイヤモンドの女王って以前に出てきましたっけ? 初登場だと思うんですが...。

 

 ダイヤモンドの女王は「リトル・ニモはここかしら? いらっしゃい、驚くものが待ってるから」と、ニモたちを招きます。しかしニモたちがこの飛び石を渡るには、あと一週間かかるようです。

レアビットとさくさくのビスケット

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 1905年12月9日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 「あなた、このビスケットどうかしら。さっくり(light)してるといいんだけど」と、妻が夫にビスケットをのせたトレイをもってきました。夫は「君がつくったんならおいしくないわけないよ」と答えています。仲がいいですね。

 

 じっさいおいしかったのか、次のコマではもうビスケットが平らげられています。「ぜんぶ食べてくれたのね! さっくりしてたかしら? ああ、うれしいわ!」と妻は喜びます。妻はビスケットの食感の軽さを気にしているようです。「さっくりしてるよ! もっと食べたいな」と夫が言っていますので、軽い歯触りのようですね。

 

 「すぐにもってくるわね。ほんとにさくさく?」「さくさくだよ...」というやりとりがつづくなか、3コマ目、夫のからだが椅子ごと傾いています。おかわりに備えてすわり直そうとしているのかと思いきや、夫は「あれ、なんかおかしいぞ」と言っています。

 

 すると次のコマで夫は完全に宙に浮いてしまいました。夫によると「羽みたいに軽いんだ」そうです。軽い歯触りのビスケットを食べたら、からだが軽くなってしまったというわけですね。妻はとうぜん驚いています。

 

 あわてる妻に対し、夫は「窓を閉めるんだ、わたしが外に飛び出さないように! 管理人を呼んできてくれ! それとドアもたのむ!」と比較的冷静に対処しています。なんで管理人を? と思いますが、その理由は次のコマで夫自身が話してくれています。いわく、「管理人を屋根にのぼらせてくれ、それでわたしを捕まえてもらうんだ」。妻は半ば発狂しながら「管理人さん! はやく!」と叫んでいます。

 

 しかし7コマ目、どうしたわけか夫は部屋の外に出てしまっています。天井の窓からは、管理人が顔をだしていますね。管理人に屋根で待っていてもらうつもりだったわけですが、一足遅かったようです。

 

 「どうしてこうなったのか...ロープあるかい?」「ちょっと待っててください!」というやりとりの後、数人の男性が窓からゴルフクラブのようなものを向けて助けようとします。「椅子をはなしてこれにつかまるんだ」「椅子から手をはなしたら上空に飛んでいってしまうよ」「椅子をはなすな!」。いろいろとにぎやかですね。

 

 結局、夫は椅子を手ばなしてしまいます。かわりにつかまるのは建物の縁ですね。「だれか来るまでつかまっていられるかな」。でも10コマ目ではからだが逆さまになってしまって、そう持ちこたえられそうにありません。「うわ! ダメだ! だれかはやく来てくれ!」

 

 夫は浮かび上がりながら、今度ははためく星条旗にすがろうとします。「これにつかまらないと終わりだ!」。でも無情にも星条旗はやぶれてしまいます。

 

 その後、夫は大空の旅をつづけるうち、教会の尖塔に近づきます。「風があそこに運んでいってくれれば、しがみつけるかもしれない...」。妻も管理人も近隣住民も、アメリカ政府もかれを助けられないとなれば、あとは宗教しかありませんね。人間、最後は神だのみです。

 

 夫は運よく尖塔のてっぺんにつかまります。「助けて! 消防を呼んでくれ!」。しかしまたしても夫のからだは空に舞いそうです。「はやく! 体力がもたない!」。地上には「おれがいく!」「はしごをかけるんだ!」などの言葉があり、かれを助けようとしているようです。

 

 でも結局、間に合いません。消防員がやってきましたが、タッチの差でつかまえることができませんでした。

 

 夫は、助けにきた消防員に対し、妻にメッセージを伝えるよう言い残します。「彼女もビスケットも悪くないんだ、彼女はよかれと思ってビスケットを軽くしてくれたんだから。彼女にさようならと伝えてくれ」。この夫もまさかこんな形で遺言を残すことになろうとは夢にも思わなかったでしょう。夢だけど。

 

 17コマ目、場面は部屋のなかに戻ります。窓から望遠鏡で空を見上げている男性が「ああ、あれか、見えた見えた、いやーもう、ほっっとんど見えないね」と言うなか、妻は画面手前で悲しみにくれています。「先週結婚したばかりなのに、初めて朝食をつくってあげたのに! ああ!」。新婚さんだったのか。愛のある夫婦を地獄に追いやりたいマッケイ先生ならではのエピソードでした。

レアビットと服をぬいだサル

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 1905年12月6日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 「おっと、これはまた馬鹿げたことが書いてあるな。われわれがかつてはサルだったって? そんなわけないだろう!」

 

 身なりのよい年老いた男性が、ソファーにふんぞり返って本を読んでいます。セリフから察するにダーウィンの進化論でしょう。この男性は進化論に反対のようです。2コマ目でも「ダーウィン? だれだよ! むかしはサルだったとか、そんなこと考えているなんて、ダーウィンは半分サルにちがいないな」と言っています。

 

 しかしかれはこの2コマ目ですでに、足がサルになりかけていて、かれもすぐにそれに気がつきました。「な、えええ!」

 

 ...あとはまあ、とくに説明しなくてもいいんじゃないでしょうか(笑)。かれはだんだんとサルになってパニックに陥り、妻にも正体をわかってもらえず、むしろ警官を呼ばれてボコボコにされます。衣服もなぜか脱げていて、もともと人間だったことがますますわからなくなっています。

 

 セリフはこんな感じです...

 

「なんだって! うそだろ?」「おい、おまえちょっときてくれ! 様子がおかしいんだ!」「なんということだ...たしかにわたしだ...おい! サラ!」「医者を呼んできてくれ、はやく!」「サラ! わたしなんだ! 逃げないでくれ!」

 

 妻のサラは、目の前に急にサルが出てきたものだから、驚いて「け、警察を!」と助けを呼びますが、9コマ目ではこのサルが自分の夫であることに気づいたようです。「ああ! おまわりさん! 撃たないでください! わたしの夫なんです! どうか殺さないで!」と顔をおおって叫んでいますので。

 

 19世紀後半以降、ダーウィンの進化論はさまざまなかたちで漫画の主題となっていて(https://en.wikipedia.org/wiki/Charles_Darwin#/media/File:Editorial_cartoon_depicting_Charles_Darwin_as_an_ape_(1871).jpg とか、https://en.wikipedia.org/wiki/Charles_Darwin#/media/File:Man_is_But_a_Worm.jpg とか)、「進化論の漫画」というテーマで本が一冊書けるレベルだと思います。もしかしたらすでに類書があるのではないか。探してませんが。

 

 ところで最後のコマには、いつもの「サイラス」のサインの下に、「原案:ハロルド・シルバーバーグ(suggested by Harold Silverburg)」とあります。サイラス以外の名前が書かれるのは珍しいですね。アイデアを投書してくれた新聞読者かもしれません。

リトル・ニモとダイヤモンドの洞窟(No.300)

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 1907年10月27日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 縦に細長いコマがならんでいて、7コマ目までおなじ形ですね。そしてだんだんとコマがまぶしくなっていきます。この白い背景はなんなんでしょうか。

 

 一行はライオンにまたがり洞窟に入ってきました。人ひとりがようやく通れる細い道で、洞窟の壁面は切り立っています。天井が高そうですね。岩肌の輪郭線や色は微妙に変化していて、洞窟の左側の壁面と右側の壁面との区別がわかるようになっています。かれらが通っている道は蛇行しているようです。

 

 「おれたちどこに向かってるんだろうな」「引き返したほうがいいかな?」。フリップとニモは不安を感じながらも、先頭を行くインプについていきます。インプもなにかしゃべっているのですが、「キ・ロウ・ソング・ゴ・イプ・ムンプ・ソプ」といった具合で、ニモやフリップには意味がわかりません。

 

 ニモは「君の言うことを信じるよ!」と、ライオンを手なずけたインプの手腕を買っているのか、インプを信頼しています。フリップはというと「アメリカの言葉を話してくれればわかるのにさ」と不満をこぼしてますね。読者の多くもそう思っているのではないでしょうか。わたしもそう思います。というか、インプの言葉を解読できたりしないものか...という気にさえなっています。

 

 ところで一行は画面の手前から奥へと向かっていますが、道が蛇行していて、ひとつひとつのコマでは三人のならび方がすこし斜めになっています。そのため、ふきだしの配置も斜めになり、そこに左右の関係がうまれますので、発言の順番が決まります。1コマ目はフリップから、2コマ目はインプから...という具合ですね。コマによって会話をはじめるキャラクターが異なるので、会話が単調でないですね。

 

 フリップとニモが「ライオンがあいつになにか言ってたよな」「インプはきっとわかってるよ」とかおしゃべりしながら歩いていると、洞窟の壁面がしだいに明るい色になっています。3コマ目で白、4コマ目で金色という、なにか高貴な雰囲気になってきました。ニモは「宮殿につれていってくれるんじゃないかな」と期待しはじめます。フリップも「だんだんきれいになってきたぞ...」と、雰囲気のちがいに気づいています。

 

 そして5コマ目、背景はまぶしすぎるほどです。壁面をよく見ると、青みがかった線がダイヤモンドのブリリアントカットを描いています。「これ本物のダイヤモンドかな、偽物なんじゃないか?」「うわあ! すごい景色だね、ぜんぶダイヤモンドだよ!」。

 

 次のコマもダイヤモンドです。ニモとフリップのおしゃべりもつづきます。「本物かどうかってどうすればわかるの?」「ガラスに傷をつけてみるのさ」。すると7コマ目、インプがライオンから降りてニモたちになにか教えていますね。「なんだこりゃ?」「降りろって言ってるんだよ!」。この、黄緑色の壁はいったい何でしょうね。またインプの背後には煙のようなものが上がっています。

 

 次のコマを見て判断するに、どうやらこれは滝ですね。煙じゃなく水しぶきか。滝はニモたちの目の前で川になっていて、ライオンたちは頭を川に落として水を飲んでいます。

 

 川の向こう側にはダイヤモンドの壁が立ち、その真ん中に洞窟の入口が見えます。その入口までは飛び石がつづいていて、入口まで行けそうですね。インプも扉を指さしています。しかしフリップは「あいつはどうするつもりなんだ? おれは疲れてきたぜ!」と、目的地も意図もわからないままつれていかれることに苛立ちはじめました。

 

 ニモはそうでもないですね。「川を渡って入口まで行こうってことだよ」と楽しんでいるようです。ニモはインプの言動を積極的に理解しようとしています。なんというか、旅に対して積極的ですね。プリンセスがいっしょだったときとは大ちがいです。お客様と冒険者のちがいと言うべきか。

 

 そういえば...いま気づいたんですが、ニモたちはいつのまにか元のサイズに戻っていますね。前回、カラフルな崖をのぼっているうちに戻ったんですねきっと。ぜんぜん気づかなかった。

リトル・ニモとカラフルな崖のうえのライオン

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 1907年10月20日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 海軍の追跡をなんとかかわして、三人は崖のうえまでやってきました。崖の下は川ですので、川の水の侵食によってできた河岸段丘でしょうか。切り立った岩肌は赤い色ですが、てっぺんは黄色です。ただ、それは1コマ目だけで、以後のコマでは崖の色が緑や青に変化しています。

 

 「ふう! やっとてっぺんについたぜ」「つかれたなあ」と話すフリップとニモは、ようやく一息つけるなと思っていることでしょう。しかしインプが指をさす向こうには、ニモたちを見つめるライオンが三匹います。一難去ってまた一難ですね。

 

 「はっ、うそだろ?」「なっ...えええ」と、フリップとニモもライオンに気づきます。と同時にライオンたちはニモのほうへ走ってきました。絶体絶命...かと思いきや、インプがライオンたちのところに近寄り、なにかしゃべっています。

 

 ニモはちょうど、崖から飛び下りようとしていたところでしたが、フリップが「飛ぶなニモ、あいつなにかやってるぞ」と、ニモにとどまるよう話します。ニモも「かれ、怖がってないね」と、インプの予想外の行動に驚いています。

 

 インプは、駆け回るライオンたちをなだめ、4コマ目では見事、手なずけることに成功しています。「あいつ、ライオンの言葉を話してるぞ」「ジャングルで覚えたんだろうね」と、フリップもニモも感服してますね。インプが尊敬されるのははじめてじゃないだろうか。

 

 それから三人は、ライオンの背中にまたがります。どうやらインプが、ニモとフリップに、ライオンに乗るよう指図しているようです。「おれたちにこうやってもらいたいみたいだぞ、ニモ」「ライオンはなにか言われたんだね」。

 

 危機が去って安心したのか、三人の表情もおだやかになりました。6コマ目ではフリップが「どこに行くのかわかんねえけど、まあどこでもいいや」と、ライオンたちが走るにまかせています。「インプは知ってるみたいだよ」と、ニモもおちついていますね。

 

 このまま三人は、7コマ目で洞窟に入っていきます。崖のうえに洞窟があるということは、やはりこのあたりは河岸段丘なのでしょうか(しつこい)。次回は洞窟探検です。

レアビットと有能ビジネスマン

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 1905年12月2日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 たくさんの人がごちゃごちゃいるのが見えますね。ところどころ、黒のベタ塗りのジャケットが映えていて、読者の視線が黒ジャケットにむかいます。

 

 1コマ目の会話はこんな内容です。「ジェイク、きみに商品見本をもって出張してもらうことにしたよ。きみがふさわしいと思うんだ...」「ありがとうございます。販促活動がんばってきます。すぐに荷物をまとめますよ」。社員が新商品の営業で、あちこち行くことになったわけですね。

 

 2コマ目ではたくさんの商品を馬車に積んでます。帽子をかぶった上司が「そろそろかい? 気をつけてな」と見送り、ジェイクは「期待に応えてみせます」と挨拶しています。

 

 ジェイクはフィラデルフィアに到着します。「一流品をそろえてきたし、大きな取引もあるだろう」と自信たっぷりで、ホテルについたら案の定、すでに多くのビジネスマンがジェイクを待ち構えていました。「あなたが来ると聞いたので待っていましたよ」「品物を見せてくれないか」という声があがります。

 

 ジェイクはたくさんのビジネスマンを引きつれる格好で、ホテルのフロントにむかいます。するとフロントから「ホテルの1階はすべてあなた様用です。買い手の方々が何千人とおりますので」といわれます。準備がいいですね。

 

 ジェイクは「こんなに人が押しよせるものだから、しゃべるのも大変だ...このフロアはすべてつかうと思います、ええ」と答えたあと、6コマ目、「応接室A」と書かれた部屋の戸口に「ご注意! 商品展示のため少々時間をいただきます。午後2時までお待ち下さい」という看板をかけました。買い手たちは「押してないよ!」とか「早くしてくれないかな」とかいいながら、さらにジェイクを待ちます。

 

 7コマ目、ジェイクが姿をあらわしました。「みなさん! わたしはここに一週間しかいられません。商品をお見せする時間もあまりありませんがご了承ください。では! 一列にならんでどうぞ」。

 

 8コマ目ではジェイクが電話中です。電話の相手はこう言っています、「建物の検査員によりますと、なかの人が多すぎて床板の横木が折れそうだということです。当ホテルのフロアが重さに耐えきれないのは遺憾ですが、もしよろしければ...」。なるほど、ホテルの人からの電話でした。

 

 ジェイクは「わかりました! ではホテル前の通りに出て行いましょう」と、相手のお願いの内容を察して、すぐに次善策を講じます。9コマ目、「みなさん! 通りに下がってください! 商品見本はすぐに移動しますので!」とジェイク。警察も「早くしてください」と、人びとの退出をうながします。

 

 ところで手前にいるビジネスマンは、なにやら板のようなものを手にして、それを夢中で見ていますね。これが商品見本? それともカタログでしょうか。画面右にいる人は細長い紙を見ているようです。ふたりとも熟読していますね。

 

 10コマ目、ジェイクはふたたび電話です。「もしもし、ライトニング製本印刷所ですか? そうです! 注文帳を10000部、すぐにもってきてください! それから注文帳はあとでまたお願いするからもっと用意しておいて! ああそれとね! 注文を取れる若者を500人よこしてくれるかな! すぐにね!」。

 

 注文帳(order book)というのは、だれがなにをどれくらい注文したのかを記録する冊子ですかね。一冊何ページあるのかわかりませんが、それを10000部とはすごいですね。ジェイクはすこしあわてているようです。近くに立つ警察官によれば「お客さんたちはパニックを起こしかけています、急いでください」だそうで、ジェイクはかれに手のひらを向けています。「わかりました、聞こえています」という意味でしょう。

 

 で、11コマ目です。コマの大きさが倍になって、群衆のとんでもない多さが伝わってきます。ジェイクは通りの角に立ち、次のように大声を上げています。

 

「みなさん! こんなにたくさんの人が一度に買いにきてくれるとは、わたしはほんとうにうれしいです。しかしながらみなさん、みなさんのすべてがご所望のものを手に入れるのは難しいと存じます。みなさん、お待ちの際にはどうぞルールを守って、また迅速なご注文をお願いいたします。制服をきた係の者たちがご注文を受けつけております。ご質問があれば係の者にお願いいたします。本日は誠にありがとうございます!」

 

 ジェイクが立つ演台には「一列にならぶこと!」「ご注文は迅速に!」と貼紙があり、またホテルの壁にそって注文受付所が設置され、ところどころに制服の係員が配置されています。客たちは「押すな」とか「まだか」とか「やあジェイク」とか、いろいろしゃべってます。「魚の目とれた! いてえ!」という声もあります。

 

 そんなわけで、たくさん注文がとれたジェイクは、その注文帳を貨物列車に積みこみます。鉄道会社の人でしょうか、「685台しか車両がありませんが、明日には数千台を用意できます」といってますね。ジェイクは「今週はずっと注文帳を受けつけてますので大丈夫です」と答えています。すでに山と積まれた注文帳ですが、まだまだ増えるみたいです。

 

 ビジネス的には順調そうなジェイクですが、警察の指導も入ります。「通りをふさぎ、交通機関を混乱させ、パニックを引き起こしたのですから、あなたには事業を停止してもらいます」と警官にいわれたジェイクはたまらず「冗談じゃない! そんなことしたら会社が...明日出発しますから!」と返事をします。一週間は金儲けできたはずなんですけれどね。

 

 その後、ジェイクは手紙をもらいます。「ジェイクへ。たくさんの注文を受けとったよ。社長が一息つくまで、君はすこし休みたまえ。君の給料は4倍にしておいた」ということで、会社の上司からですね。じゅうぶんに成果はあったようで、ジェイクも一安心です。「建物がギシギシいってるだって? ハハハ!」

 

 最後のコマ、ジェイクはまだ眠っています。たしかに、これは悪夢ではありませんからね、眠っていたいでしょう。そこに上司がやってきます。「おい! ジェイク、起きろ! レアビット狂なんかいらないんだよ! こら!」

 

 というわけで今回の「レアビット狂の夢」、真に悪夢を見ているのはレアビットを食べた人ではなく、眠るレアビット狂を起こしにやってくる人という、じつに珍しいケースです。ジェイクはほんとうは起きてたりして。

レアビットとレストランと捨てられた犬

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 1905年11月29日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 「そば粉のパンケーキとフランクフルトソーセージをたのむ。あとジャワコーヒー。ソーセージは炒めてくれ」「かしこまりました」。レストランの客とウェイターですね。これ書いてるわたしがお腹すいてきました。

 

 客の男は空腹のせいか、すこしいらだっています。「まったくいやになるよ! なぜみんなわたしの名前のつづりをまちがえるのか。だれかがまちがった名前を伝えたのかな」。

 

 名前のつづりをまちがえられるといえば、作者のウィンザー・マッケイですね。正しくは Winsor McCay ですが、Windsor とか McKay とか書かれますので。

 

 あと、まったくどうでもいいことですが、わたしの名前もよく書きまちがえられます。正しくは「知志」ですが、「和志」と書かれることはしょっちゅうです。しかし「いやになるよ!」と思ったことは一度もなく、今回のエピソードの主人公はちょっとイライラしすぎなのではないかと思います。空腹だからかな。

 

 ウェイターが料理をもってきましたが、客の男は新聞を読みふけっています。「ほう! スワインガーテンがゆうべ結婚したのか。あいつ、いい気味だな。今朝のニュースはおもしろくないな、社交界はつまらなくなったにちがいない」。テーブルにおかれた料理にはあまり興味を示していないですね。こういう、食卓につきながら料理に見向きもせず新聞を読むというビジネスマンっぽさ(?)の表象は、やはり新聞の誕生とともに現われたんでしょうか。

 

 4コマ目、テーブルのうえにかわいいものが見えます。子犬ですね。客も気づきました。「おいおい! ウェイター! なんだこりゃ? ソーセージなのか? なんなんだよこのレストランは」。子犬はよく見るとしっぽをふってますね。

 

 「おい! ウェイターちょっと来い! なに出してるんだよ! これ見ろよおい!」。客はめちゃくちゃ怒ってます。テーブルのうえの子犬はしっぽをふって、舌を出していますね。で、そこで客の料理を食べてしまったのか、6コマ目ではだいぶ大きくなっています。

 

 「これがわたしの朝食なのか? どういうつもりなんだ?」「シェフがわたしにこれを渡したのです、お下げいたします」。ウェイターも困惑していますね。犬はウェイターに吠えています。下げられたくないということでしょうか。この犬は客のことが好きなのか。

 

 客は店を出ます。と同時に店は犬を追い出します。「追い出すのかい。わたしも帰るがね...」。犬は客の男についてきますが、男は「しっ! しっ! あっちいけ! あっちいけよ!」と追い払います。でも犬は、男のもとをぜんぜん離れようとしません。

 

 男は「うせろってんだよ! この野良犬め!」とかいいながら、なにか投げつけはじめました。ごみくずでしょうか、犬の周囲に舞っています。すると犬が「アタシのこともう愛してないの?」と問いかけてるじゃないか。え、かなしい。

 

 ...というかこの犬は、こんなイライラしてる男のなにがよかったのか。好きになるポイントはこのエピソードには見えませんが。もしかしたら犬は「料理をくれた」と思っているのかな。いずれにせよ、この話が最後に恋人の別れみたいな感じになるとは予想できませんでした。