いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドと野犬捕獲人

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 1896年9月20日の『ニューヨーク・ワールド』紙に掲載された漫画「イエロー・キッド」です。「イエロー・キッド」というタイトルは、手前にいてこっちを見ている黄色い少年の姿からとられたものです(正式なタイトルは、しいて言えば「ホーガン横丁」)。作者はリチャード・アウトコールト。

 

 画面中央では、男がストリートチルドレンや犬たちにボコボコにされていて、その奥ではDOG CATCHERと書かれた車が燃えています。どうやらこの絵は、野犬を捕まえにホーガン横丁にきた男が、返り討ちにあっている図のようです。

 

 上のほうでは、少年が落下中です。「見て見て、モリー・ブローガンにぶつかってぐしゃっとなっちゃうから(Watch me make a mash on Molly Brogan)」と言ってますが、モリー・ブローガンというのは、下で両方の手のひらをこっちに向けている、驚いた表情の女の子のことです。イエロー・キッド以外にも名前付きのキャラが何人かいました。ていうかウォッチミーじゃねえよ。

 

 イエロー・キッドは、画面中央のようすを指さしながら、こっちを見て笑っています。黄色い服には「なにがあったってあいつがいちばん人気さ、いやほんとに(He is de most popular bloke wot ever happened I dont tink!)」と書かれていて、もしかしてボコボコにされてる男はカモなのか?とか思ったり。

 

 イエロー・キッドは手紙を持っていて、ちょっとなにが書いてあるのかわかりづらいんですが、アメリカのマンガ史家の大御所である故ビル・ブラックビアードが親切にも活字で記してくれていて、それによると以下の通り。

 

「わたし宛ての手紙がもうめちゃくちゃ多くて、ぜんぜん開けてもないんだ。少しでも手紙を返したいから、どなたかかわいいタイプライターさんに手伝ってもらいたいんですが(My correspondence is gittin' so durn big dat I can't open all my mail. Wont some pretty type riter gal please donate her services till I kin answer a few of my letters?)」*1

 

 というわけで、作者アウトコールトからの求人でした。作中世界にこういうメッセージを盛り込むあたり、マンガって自由だなと思います。

*1:R. F. Outcault's The Yellow Kid: A Centennial Celebration of the Kid Who Started the Comics, Kitchen Sink Press, 1995, p.53.