いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットとニューヨークの巨人

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 1905年1月7日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 巨人です。酔っぱらっているのか、ふるまいが大胆ですね。細かいことは気にしない(巨人なので細かいところは見えない)ようです。「いちどこの街に来て、羽目を外してみたかったんだ」と言ってるので、観光も兼ねてるんでしょう。

 

 というわけで巨人は名所をめぐります。肘をかけているのはおそらくフラットアイアンビル、1902年竣工の高層ビルです。腰掛けてるのは1883年に完成したブルックリン橋でしょう。自由の女神1886年)には馴れ馴れしく声をかけています。

 

 ウォール街はめちゃくちゃに破壊されてますね。それから地下鉄を引っぱり出しておみやげにしようとしています。ニューヨークではじめての地下鉄開業が1904年10月27日だそうですから、このマンガの二ヶ月前ですね。二ヶ月でこんなことになるとは。

 

 ところで、この「レアビット狂の夢」のことを調べるとき、いつもお世話になっている文献があります。

 

 Ulrich Merkl, The Complete Dream of the Rarebit Fiend (1904-1913), 2007.

 

 ウルリヒ・メルクルというドイツ人研究者が編集・出版したものです。464ページもある本で、しかも縦に31cm、横に43.5cmあり、重量は4kg以上という、「それ...本なの...?」という代物ですね。さっきアマゾンで値段を見てみたら、中古で175ドルでした。

 

 膨大なページの大部分は、「レアビット狂の夢」の原寸サイズ複製、および解説文で、この解説文がとても勉強になります。ただ、わたしが一番お世話になっているのは付属のCD-ROM(DVDだったかな)で、ここには「レアビット」の全エピソードのデータ(カタログ・レゾネ)が収録されているのですね。

 

 上のマンガについていえば、画像データはもちろんのこと、1905年1月7日という掲載年月日や、物語内容の簡単な要約、さらにはフラットアイアンビルが1902年竣工とか地下鉄が1904年10月27日開業とか、関連する情報についてのメモなどが記されています。スウィフトの「ガリヴァー旅行記」(1726年)や、映画「キング・コング」(1933年)についての言及もあります。

 

 こうしたメモが、「レアビット」やその他のタイトル、あわせて800以上のエピソードのひとつひとつに付けられているのですから驚きです。各エピソードには番号が振られていて(上のマンガは30番)、「ニューヨークが舞台になっているのは他にも9番、18場、20番...」とかの情報も入っています。

 

 もう、ただただすごいという他なく、間違いなく「レアビット狂の夢」研究における最重要文献のひとつです。内容が充実しすぎていて、わたしはまだすべてに目を通せておらず、仮に「すべて読んだぞ!」という日が来たとしても、そのときには最初に読んだ内容を忘れていることでしょう。