レアビットと象の綱渡り
1905年1月14日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。
またサーカスの夢ですね。象の綱渡りです。象の綱渡りは19世紀半ば、ダン・ライス(Dan Rice)という興行主がやりだしたようですが、その後この芸がどうなったのかはよくわかりません。今もやってるのだろうか。
ベッドの男が「...寝る前にこんなロープあったっけ?」と不思議に思っていると、象の芸が始まって、「なんなんだこのホテルは」「ぐっすり寝ようと思ってたのに」「お前さんいつまでそれやってるんだい」「ホテルに100万ドル訴えてやる」と、象を気にしながらつぶやきます。
男が身の危険を避けるには、ベッドから逃げればいいのに、それをしないのは、もちろん読者に楽しんでもらうためでしょう。というかマッケイにそうさせられてるわけですが。男はコマの中央にとどまって、象だけでなく男も見世物になります。
コマの中央で見世物になる、ということでいえば、例えばリュミエール兄弟の弟ルイが監督をした映画「水をかけられた散水夫」(1895年)を思い出します。
ある男が、ホースで水やりしてる庭師にいたずらしようとしてホースを踏んづけます。水が出てこないと思って庭師がホースの口をのぞき込んだときに、男がホースから足を離し、庭師の顔に水が勢いよく吹き出る。
いたずら男は逃げて、映画のフレームから消えようとするのですが、怒った庭師がフレームの端で男を捕まえて、フレームの中央までわざわざ引き戻し、そこでおしおきをするんですね。捕まえた場所でおしおきすればいいのに。当然、おしおきの場面を観客に楽しんでもらいたいからルイ・リュミエールは役者にそう指示したわけです。
ところで最後のコマで男は「いまの夢、サイラスに教えよう」と言ってます。サイラスとはマッケイのペンネームで、じつはマッケイは新聞読者に夢の投書を呼びかけていました。読者からネタを調達していたんですね。