いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドと馬車旅行

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 1896年6月7日『ニューヨーク・ワールド』の「イエロー・キッド」です。

 

 タイトルを「馬車旅行」としていますが、馬は一頭もいません。ロバが一頭と、あとは犬、猫、豚、ヤギかな。馬のおもちゃならありますね。画面の真ん中で黒人少年が乗っています。

 

 イエロー・キッドは、樽が積まれた「馬車」の後ろのほうに乗っていて、立ちながらラッパを吹いています。樽にはミッキー・デュガンの文字があり、この名前とイエロー・キッドの絵とが結びつけられていると言っていいかもしれません。列のいちばん後ろにいる「ホーガン&ブローガン」が気になります。とくに体育座りしてる帽子の人。

 

 それにしても、やかましい絵ですよね。隙間が全然ない。人や動物が各所に配置されているし、さまざまな線があちこちに引かれています。

 

 画面左側から見ていくと、猫を追いかける犬に驚いてひっくり返る、青いジャケットの男性がいます(なんで笑ってるのこの人)。後方に飛び上がる動きが線で示されています。走る犬の猛スピードにくらいつく少年少女の帽子も、後ろに飛ばされていて、そこにも線がありますね。

 

 空中では猫が投げ飛ばされていて、線がたくさん描かれています。チューバからは、空気が出ていることを表す線と、楽器の音が出ていることを表す線(五線や音符など)があります。その右では、ホーガン&ブローガンのほうに放たれた吹き矢の線があります。

 

 「馬車」の列なので、手綱とムチの線もあります。手綱とムチの線は、そのものの輪郭線として描かれているとは言いがたく、一本の線だけで手綱やムチを表しています。画面の右下では、パレードに対して真横に直面する「馬車」たちがいますが、彼らの手綱の線はパレードの列へと伸びていく垂直線になっていて、画面を対角線上に走るパレードを右下から支えているように見えます。

 

 右下の「馬車」たちはみな比較的背が低いので、パレードがよく見えます。ここに大人の見物人がいなくてよかった。馬車旅行の無軌道ぶりもよく表現されていると思います。