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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットと埋葬される男

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 1905年2月25日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 最初のコマで、男がフレームの左上から、にゅっと出てきてますね。描かれている人物の角度から、読者のわたしたちは彼らを下から見上げているとわかります。

 

 彼らはこう言っています。「あっ!盲腸を切除したと思ったが、切除したのは彼の...」「ああ、彼の命を取り去ってしまったようだ、もう彼はダメだろう」。彼らは医者で、手術中であり、患者が下に横たわっているわけです。それは読者の位置であり、読者に見えているものが患者の視野と重なっています。純粋な一人称視点ですね。

 

 医者は続けて「脈が止まっている」と言ってます。ついに患者は死んでしまいました。ですがこのマンガが終わっていないということは、患者がまだ視野を持っているわけですから、患者はまだ生きているのかもしれません。周囲の人々は彼を死んだものとみなしていますが、彼自身はまだ死んでおらず、そのギャップが悲劇を生みます。

 

 やって来た奥さんは、死んだ夫を見て泣き崩れるのかと思いきや、「5セントも残さずに死んでしまったの? でも私、あなたが死んでくれて本当にうれしいわ、あなたとの人生はひどいものだったから」だそうです。夫は浪費家で、財産を独り占めしていたようですね。奥さんは夫を全然愛していなかった。

 

 4コマ目の埋葬場面では「とんだ大酒飲みだったよまったく」とか「あのクズのことは私が忘れさせてあげるよメアリー、愛してる」とか、葬式中には到底聞かれないような言葉が、死体の上を飛び交っています。5コマ目の牧師っぽい人も「このたびの死は、奥様のみならずこの地域全体にとって神の恵みです、彼は本当にクズだった」だと言ってますね。

 

 これらのひどい言葉を、埋葬される男は聞いていなければなりません。こんなことなら本当に死んでしまいたいと思っているのでは...。

 

 4・5コマ目では、フレームが楕円に切り取られ、周囲が黒く塗りつぶされて、男の視野が狭まっていることがわかります。6コマ目では棺の内壁が描かれ、7コマ目ではスコップで投げかけられる土も描かれ、コマのなかがどんどん黒くなります。完全な暗闇に包まれて、それでも意識は残りつづけるわけで、まあ、生前の悪行を反省しろということかもしれませんが、それにしてもキツい地獄です。

 

 夢から覚めた男性は「ああメアリー、ちゃんとする、ちゃんとするから! ...ああ夢か!」と叫んでます。夢の中ではずっと声をあげられませんでしたからね。