いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドと金銀対決

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 1896年8月2日『ニューヨーク・ワールド』の「イエロー・キッド」です。

 

 字が多いよ...。

 

 この年に行われた大統領選挙をネタにしたマンガです。共和党からウィリアム・マッキンリーが、民主党からウィリアム・ジェニングス・ブライアンが立候補しました。

 

 イエロー・キッドの服には「オブライアン(O'Bryan)」と書かれています。これはブライアンのことですが、ブライアンのお父さんがアイルランド系の人で、アイルランド系の姓だと「O'」が最初につくことが多く、ブライアン家はもともとオブライアン家だと人々には思われていたらしいです(本当のところはどうだったのかわかりませんが)。

 

 また、イエロー・キッドの服には「ついにボクも政界入り」とも書かれています。これまで中立的だったイエロー・キッドが民主党のブライアン支持を表明したからでしょう。それとよく見ると、服の下のほうに継ぎをあてられています(This is a new piece と書いてありますね)。イエロー・キッドは成長したんでしょうかね。

 

 それにしてもごちゃごちゃしたマンガですね。こんなに人が集まっていたんでは、たしかに声がよく聞こえないでしょうから(ラッパとか太鼓とかもあるし)、プラカードとか看板とか、あるいは寝巻きとかに文字を書いて、それを見てもらうしかコミュニケーションの術がないでしょう。

 

 プラカードや看板の文字は、ご丁寧にもどれも読者が読めるような向きと読みやすさで書かれています。ざっと見たところ、フリーシルバー支持(ブライアン支持)のメッセージが読みとれるものが多いですね。「フリーシルバー」の文字や、金銀の価格比を示す「16対1」という文字があります。農夫たちは「金の時計や鎖を身につけてるやつらに投票できると思うのか」と書かれたプラカードを持っています。

 

 一方、仕立て屋の「ブライアンには投票できないな、ひざのところにしわが寄ってないから」(つまり仕立て屋が作るようなスーツをふだん着ていない、の意味)とか、理髪師の「マッキンリーを支持するぜ、フリーシルバーのやつらはひげを生やしたまんまだからな」(つまり理髪師が儲からない、の意味)とか書かれたプラカードもあります。

 

 いずれにせよ、このマンガは字が多くて絵もごちゃごちゃしていて、どこに注目すればいいのかわからないようにできています。どのメッセージも特別扱いしないということでしょうか。以前もそうでしたが、『ワールド』紙がいまいち煮え切らないことの表れでもあるでしょう。

 

 空を横切る黒猫と、屋上のヤギのシルエットになぜかほっとする...。