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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドと北極

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 1896年8月16日『ニューヨーク・ワールド』の「イエロー・キッド」です。

 

 舞台は北極です。北極探検の歴史を振り返ると、1906年ノルウェーの探検家ロアール・アムンセンが北西航路北アメリカ大陸の北側海路)の横断にはじめて成功し、1909年にアメリカの探検家ロバート・ピアリーが北極点にはじめて到達(疑惑あり)、となっています。

 

 イエロー・キッドたちはそうした探検家たちよりも早く、19世紀末に北極に来ていたことになります。すごいですね。もっとも北極がネタの絵は、19世紀イギリスの風刺画家ジョージ・クルークシャンクの時代からすでに描かれているようです*1

 

 イエロー・キッドは北極の柱のてっぺんに座っています。いつもよりだいぶいい服ですね。袖に「ブライアン」と書かれたタグがついてるので、民主党のブライアンにもらったんでしょう。今回は服に言葉が書かれているかわりに、イエロー・キッドは手に紙を持っていて、それにメッセージが書かれています。曰く、「ニューヨークに帰ったら北極開発会社を作ろう(When I gits back ter New York I'm going ter organize der Arctic Land Improvement Kumpeny Ltd.)」だそうです。野心むき出しです。

 

 イエロー・キッドにかぎらず、みんな北極でやりたい放題というか、「見つけたもの勝ち」「やったもの勝ち」の空気に溢れています。画面右側の崖は早くも「分譲地(Lots for sale)」になってますし、左側の崖の上ではこどもがペンギンを捕まえようとしています。中央では船が着岸し、こどもたちが列をなして遊びにきていますので、このあと北極はもっと荒らされることでしょう。

 

 鳥かごの中のオウムは「よかった、ただの夢か(Thank goodness this is only a pipe dream)」と言っています。パイプ・ドリーム、麻薬が引き起こすような不可能な夢ということですね。たしかに、世の中は帝国主義の時代ですし、もしかしたらアメリカは北極の資源を狙っていたのかもしれませんが、さすがに北極は氷が厚すぎるので大規模な開発を行うのは非現実的だったと思います。

 

 昨今は地球温暖化が原因で北西航路の氷が溶け、関係諸国が領土・領海権を争っていると聞きます。一世紀ほど遅れて各国からイエロー・キッドたちがやってきたということでしょうか。話し合いでうまく決着がつくといいのですが。

*1:R. F. Outcault's The Yellow Kid: A Centennial Celebration of the Kid Who Started the Comics, Kitchen Sink Press, 1995, p.48.