いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドと仲間入りの儀式

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 1896年9月13日『ニューヨーク・ワールド』の「イエロー・キッド」です。

 

 このマンガもいろいろと書いてありますね。まずいちばん下のキャプションですが、「ホーガン横丁での秘密結社の入会式(A Secret Society Initiation in Hogan's Alley)」と書いてます。

 

 「レアビット狂の夢」でも秘密結社の話がありましたが、フリーメイソンなどの友愛団体はアメリカでは一般的なもので、民族や宗教、思想などにしたがったさまざまな団体がありました。

 

 イエロー・キッドの寝巻きに、輪が三つつながった鎖があり、また赤い帯に「ホッドフェラーズ(Hod Fellers)」と書いてありますが、これは「オッドフェローズ(Odd Fellows)」という、実際にある友愛団体の名前を拝借したものです。「ホッド」とはレンガを運ぶときに使う、棒のついた容器のことで、画面中央やや左寄りに描かれています。レンガではなく樽が乗っていますけれど。

 

 ホッドのとなりにある「In Hoc Signo Vinces(この印にて勝利を収めん)」という言葉も、キリスト教においてはよく知られたもので、友愛団体の標語になっていたりします。また、その左下にある貼紙や、四面プラカードには「Ancient Order of...」と書かれていますが、これも例えば「ヒバーニアンズ(Ancient Order of Hibernians)」など実際の秘密結社からとった名前です。

 

 イエロー・キッドはいつものようにこちらを向いて、状況説明をしています。指をヤギのほうに向けていますね。ヤギは背中にこどもを乗せて猛然と走っています。こどもはヤギの角に目をつぶされていますが...。ひっくり返ってるこどももいます。おそらく新入会員でしょう。しんどい儀礼です。

 

 イエロー・キッドは「あいつはきっといいメンバーになるよ(バラバラになるかもだけど)、あのボックビールのやつが仕事を終えたらね(He will be a pretty good member (or dismember) when dat dere bock beer sign gits trough wit im)」と言ってます。仕事をしてるのは明らかにヤギなので、ヤギ=ボックビール?

 

 調べましたら、ボックビールとはドイツのアインベック地方で生まれた黒ビールのことで、のちにミュンヘンで製造されるようになったときに、ミュンヘン訛りで「アインボック」となり、ドイツ語で「アインボック(ein Bock)」とは雄ヤギという意味になるので、ビールのラベルにはよくヤギが描かれるようになったということです(Bock - Wikipedia, the free encyclopedia)。

 

 あとは...アパートから飛び降りてるこどもがいますね。「この習慣をやめることができたらなあ(I wish I could break myself of this habit)」だそうです。アウトコールトがやめさせてくれないんですね、かわいそうに。

 

 以前にも言ったかもしれませんが(これまで何を言ってきたのかあまり覚えてない)、建物があると画面の何層にもわたって人物を配置できるので、画面全体をにぎやかにできますね。落ちる少年といった、縦方向の運動を描くこともできますし、それに空が見えていると、はためく洗濯物も気持ちよさそうです(きれいとは言ってない)。