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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドとアスレチック・クラブ

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 1896年9月27日『ニューヨーク・ワールド』の「イエロー・キッド」です。

 

 アスレチック・クラブということで、たしかにこどもたちがいろいろな運動をしています。ブランコ、つり輪、マット運動、ボクシング、鉄棒などが行われています。ボクシングをしてるふたりの手前では、こどもたちが寝転がっていますが、これはレスリングでしょうか。その左隣では小さな子が大きな鉄アレイで筋トレしています。

 

 画面の真ん中でオウムが「リズとモーリーがすげえ!」と驚いていますね。リズとモーリーはブランコの曲乗り中です。さかさまになってるのがリズですね。横顔が美しいです。

 

 イエロー・キッドはというと、ポーカーをしてます。エースを何枚も持っていて、ちょっとそのいかさまはバレやすいんじゃなかろうか。右端の大きな帽子の少女も目立ちますね。少女の無表情がかわいいんだけど怖くもある。

 

 なんで運動場でポーカーやってるの? と思うのですが、おそらく鍵となるのは、鉄棒の近くにある貼紙ですね。「ホリゾンタル・バー(horizontal bar)」と書かれています。ホリゾンタル・バーとは鉄棒競技のことなのですが、同じ貼紙に「つけはきかないぞ、払える分だけにしろ(don't owe any bar bill then you won't owe more than you kin pay)」と書かれていますので、これは明らかに「酒場」の意味です。

 

 この酒場「ホリゾンタル・バー」が階下(down stairs)にあると貼紙に書いてあります。だから階下ではポーカーやってても問題ないのですが、イエロー・キッドたちは下の酒場が満席なので上の運動場にやってきたのかなあと思います。

 

 さて、このマンガでなにより気になるのは、右上の巨人の少年です。だれなんでしょうかね。イエロー・キッドたちを屋根の上から見下ろしていますが、え、屋根はガラス張りなの? なんでそんなに大きいの? など、いくつか疑問が生じます。

 

 おそらくは、「イエロー・キッド」の読者の代表、ということなのかな。『ワールド』の読者は、新聞紙面を上から見下ろして、イエロー・キッドや他のホーガン横丁のこどもたちを楽しんでいるわけですので、それを表したこどもなのではないか。

 

 この巨人少年については、(いつもお世話になっている)ブラックビアードが面白い指摘をしています。巨人少年の近くで、はしごが途切れていますが、この途切れ方、垂直と水平にスパスパっと切れているのがおわかりでしょうか。また別の箇所、たとえば鉄棒の真上あたりでも、垂直と水平に切れています。巨人少年とアスレチック・クラブとの境目が、縦横のジグザグ線になっているわけですね。

 

 新聞紙面の内部で縦横に線が引かれているといえば、コラムの境界線が思い当たります。実際、これまで「イエロー・キッド」は他のユーモア小話コラムといっしょのページに掲載されていました。ブラックビアードは「これはおそらく、もともとはこの場所に文章が掲載されるはずだったのだが、間に合わなかったので土壇場で絵に差し替えたのではないか、色もフルカラーではなく二色刷りだし」と推測しています。なるほどー。

 

 ちなみにこの絵は、以前「イエロー・キッド」を描いたこともあるジョージ・ラクスです。あわてて描いたんでしょうかね。でもさすがに上手です。ラクスはのちに「アシュカン派」の画家として、アメリカ絵画史に名を残す人物となります。