いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットとワニ皮のバッグ

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 1905年4月12日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 全体をひと目見て、大まかな話の流れはわかります。女性の手にしているバッグが巨大なワニになっていって、最後は女性を食べてしまう、というものですね。ただよく見ると、6コマ目以降ワニがしゃべっていて、その内容が気になります。

 

 最初から見ていきましょう。女性がワニ皮のバッグを見て喜んでいる姿からはじまります。「なんてステキなプレゼントなのかしら...きっとウィリーがくれたんだわ」と言っています。

 

 2コマ目では、女性は手紙を読みながら「やっぱりウィリーからよ」と喜んでいます。バッグそのものもうれしいし、それを贈ってくれたのがウィリーということもうれしいのでしょう。3コマ目で目をつぶり「ウィリーに会いたい...ハグしたいようキスしたいよう(I wish he was here how, I would hug and kiss him, yum yum yum!)」とつぶやき、4コマ目で「プロポーズしてくれたら即答でイエスよ」と妄想にふけります。その間、バッグがおかしなことになっているのにまったく気づきません。

 

 2〜4コマ目の、バッグがじわじわワニになってゆく表現、いいですね。以前も言いましたが、のちのアニメーション制作を思わせるこういう表現を、マッケイは好きだったんでしょうね。とくに3コマ目のワニが個人的には好きです。魚と少女の中間形態の、カエルみたいなポニョも好きです。

 

 5コマ目で異変に気づいた女性は「ぎゃあ! 出てって!」と叫びます。すると次のコマから、ワニがしゃべり出します。「出ていけだと?」と女性に返事をしていて、まるで「おれはおまえへのプレゼントなんだぞ、出ていけとはひどいじゃないか」と言わんばかりです。ちなみにウィリーのことは「ポンコツ(that peanuts headed Willie)」呼ばわりですね。

 

 ワニは、女性の言葉をまねて「ウィリーに会いてえよ、あいつの疲れ果てた顔を見たいもんだぜ(I wish he was here, he and his frazzled face...)」と言ったあと、7コマ目で「いいもん見せてやるよ」と言いながら大きな口を開けます。8コマ目ではさらに巨大化し、ワニの体がコマいっぱいに描かれていますね。「ワニ皮のバッグがほしいなんてもう言わせねえよ」だそうです。

 

 マッケイは、女性の物欲に対して基本的に冷たい感じがしますね(笑) とくに男性から金銭やプレゼントを受けとる女性は、このマンガのようにひどい最後を迎えるか、あるいは前回のマンガのように、女性自体が恐ろしげに描かれていることが多い気がします。マッケイ自身はどうだったんでしょうね。ポンコツだったんでしょうか。