いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドとフットボール開幕

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 1896年11月15日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 先日紹介した、「女性たちのフットボール」(イエロー・キッドと女性たちのフットボール - いたずらフィガロ)と同日のマンガです。「女性たちのフットボール」では、アーチー・ガン描く美しい女性たちがフットボールをしていましたが、上のマンガはもはやフットボールとはいいがたいですね。

 

 まずイエロー・キッドから見ていきましょう。彼は画面左のほうを走っています。左手にボールを持ち、右手で少年の顔を押さえつけています。この少年は、左手をイエロー・キッドの頭にのばしていますが、イエロー・キッドの寝巻きに「ボクの髪はつかめないでしょ(He cant git me by de hair)」と書いてあるように、イエロー・キッドの阻止に失敗しています。そりゃ戦略が悪すぎだ。

 

 イエロー・キッドの寝巻きの裾をつかんでいた少年は、裾が引きちぎれて空中でさかさまになっていますし、土煙の下には少年が何人も倒れていますし、他にも犬に噛まれている子や後ろから首をつかまれている子、ヤギにどつかれている子や猛スピードで回転しつづける子など、とにかくひどい目にあっている少年がいろいろいます。

 

 インディアンの少年もいます。服には「カーライルからのハイキック(Kick-in-the-face from Carlisle)」とあります。カーライルとは、当時インディアンを白人に同化させる目的で作られた寄宿学校、カーライル・インディアン工業学校(Carlisle Indian Industrial School)のことです。そこではインディアンの若者たちがつれてこられて、英語やキリスト教などの教育を受け、一方インディアン伝統の慣習は禁止されていました。だからこのマンガでもフットボールをやっているのでしょうか。

 

 画面右下には、すごい形相で苦しんでいる少年がいます。顔を踏みつけられていますね。ふきだしには「あいつら、おれたちの部数を止めやがった(Dey are stoppin me circulation)」とあり、また彼のおしりには「ホーガン横丁から(From Hogan's Alley)」と書かれていますので、これはもう『ニューヨーク・ワールド』紙のことでしょう。対して、Vサインの少年は『ジャーナル』ですね。斧を何に使ったんだ。

 

 上の、作家タウンゼントによる活字の文を読むと、どうやらこのフットボールは「マクファデン通りチーム」と「元ホーガン横丁チーム」とでやってるみたいなんですね。で、この場面は、イエロー・キッドが最後の最後にタッチダウンを決めたところで、それでこのゲームに勝ったようです。

 

 活字の左側にもイエロー・キッドが描かれています。つま先から出ているのは線路で使う釘で、もともとイエロー・キッドはこれをはいてゲームに出るつもりだったらしいのですが、周囲から止められ、裸足でなければ出場できないことになった、とタウンゼントの文には書いてあります。ストリートチルドレンの殺人フットボールになるところだったんですね。

 

 あと、やっぱり目を引くのは、リッカドンナ・シスターズです。なんでこの子たちだけ、こんなに写実的なのか。まわりから浮いてますよね。もしかしたらこの冊子の表紙の、アーチー・ガンの女性たちを意識してなのかなと、ちょっと思います。ピンナップ・ガールを描いておけば紙面が華やかになるだろうという思惑を感じます。

 

 一方に写実的な人物があって、もう一方にふざけた顔(笑)の人物がいても、あんまり気にしてない感じですよね。表紙からしてそうだし。画面右側の、樽のところにいる人物なんて、右腕が途中からなくなってますからね。なんなのこの落差は。