いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドと七面鳥

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 1896年11月22日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 さて、どこから取りかかるべきか...。隙間が全然ない紙面ですね。

 

 比較的目立つのはやはり、前景のイエロー・キッドと、画面右側を向いてこどもたちを驚かせている七面鳥、それといちばん前にいる、白い服を着たこどもでしょうか。七面鳥の羽毛はきれいに彩色されていて、羽毛の線もわりと丁寧に描かれているので、からだのもこもこ感があります。白い服のこどもは、明るい部分と暗い部分がはっきりしてて、顔が見えないのがなんかすこし怖い。

 

 七面鳥は、わたしはまったくなじみがなく、感謝祭でふるまわれる鳥だということ以外、どういう鳥なのかほとんど知りませんでした。ニワトリくらいの大きさかと思っていたら、もっと大きいんですね。こどもの背丈くらいある。

 

 イエロー・キッドは、すでに毛をむしられた七面鳥をかついでいます。これからほふるのでしょうか。寝巻きの言葉はこうです、「この雄鶏には手を出さないよ。来週日曜のジャーナルを買えば、雄鶏ファイトが見られるよ」。

 

 雄鶏は、イエロー・キッドの左腕につながれながら、前を歩いています。首には札を下げていて、Too scientific to be et とあります。「すごい技巧派で食べ物にするには惜しい」という意味かな。「なにとでも戦う」とも書いてあって、これは来週の『ジャーナル』が楽しみですね。

 

 イエロー・キッドの下にいるカエルも「ジャーナルの部数のようにボクもジャンプできたらなあ」と、『ジャーナル』をヨイショしてます。編集部がアウトコールトに命じた言葉なのでしょうか。

 

 でも一方で、画面右端の、白い鳥が逆さに吊るされているあたりの落書きにはこう書かれています、「だれもがその線でアーティストなのさ。歯医者は歯を引き抜き、編集者は給料を引き抜き、賭博者はカードを引き抜くだろ(Everybody is a artist in his line, dentists draw teet, editors draw salaries, an gamblers draw cards)」。

 

 もちろん line は線という意味ですが、分野・職種という意味もあり、また draw(引く)は日本語と同様さまざまな対象に用いられ、おかげで訳すのが難しい英文になっています(笑)。それにしても、編集者を「給料泥棒」呼ばわりしても掲載されるんですね。吉本の芸人が吉本興業のギャラの低さを嘆くことで笑いに変える、的な手法なんでしょうか。

 

 キャプションは「七面鳥ギャンブルでイエロー・キッドがさいころの腕前を見せる」。七面鳥ギャンブル(a turkey raffle)というのは、ふたつ一組のさいころを3回振って、トータルでいちばん大きな数字になった人が七面鳥を持って帰れるゲームのようです(参照:Turkey raffles were 19th century versions of bar trivia nights - The Bowery Boys: New York City History)。

 

 さっきの落書きの下に、輪になってる人集りがありますが、そこでやってるのかな(貼紙にダイス・ボックスと書かれているので)。でも画面左手の、赤い幕が左右で束ねられている小屋のところにも Turkey raffle の文字がありますね。よくわかりません。「イエロー・キッド」はもうわからないことだらけですよ!

 

 この赤い幕のある小屋の上では、4羽の小鳥がしゃべっています。「リッカドンナの女の子たちほど大きくないけど、あたしたちだって姉妹よ(we're de same breed)」だそうです。で、彼女たち(雌かどうかわかんないけど)のすぐ下に They are birds と書いてあるんですが、これなんかもうあまりに明白すぎて逆に謎めいてくるという...。