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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドと生計の立て方

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 1896年11月22日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 「イエロー・キッドと七面鳥」(イエロー・キッドと七面鳥 - いたずらフィガロ)と同日のコミック・ストリップ(コマが複数あるもの)です。タイトルは「多才なイエロー・キッドがやるかもしれない生計の立て方」となっています。コマのひとつひとつに活字キャプションがありますね。

 

 最初のイエロー・キッドは、寝巻きに「かせぐならどんな仕事がいいかなあ」と書いてあって、キャプションには「もし結婚したら、最低限の収入は得たいところだな」とあります。こどもの発想とは思えませんね。

 

 そんなわけで、これ以降、イエロー・キッドはいろいろな職業のコスプレをしていきます。

 

 まず警官です。キャプションに「ボクはおまわりさんが好きだな、それにできると思うんだよね、すごい簡単だから」と、早くもなめくさった発言ですね。でもたしかに、いつもマクファデン通りで自警団まがいのことをやってるとは思う。

 

 次は、ドラムを持っています。「きみのいちばん好きな曲はなんだい」と寝巻きにありますので、ドラムを叩きながら歌でも歌うのかなと思うのですが、キャプションにはこうあります、「最近じゃ曲を作るのだって簡単だよ。ギルバート&サリヴァンと「ノルマンディの鐘」を買いさえすればオペラを書けるんだもの」。

 

 ギルバート&サリヴァン(Gilbert and Sullivan)は19世紀後半の人気劇作コンビで、「ノルマンディの鐘」(「コルネヴィルの鐘」)は1877年初演のオペラです。イエロー・キッドはこれらを堂々とパクって新曲を作るつもりでしょう。

 

 つづいて、さいころを振ってますね。賭博で生計を立てるつもりでしょうか。寝巻きには「そんな悪いことにはならないでしょ」、キャプションには「パーク・ロウでさいころを振ってかせごうかな」とあります。パーク・ロウとはマンハッタンにある通りの名前で、19世紀末には新聞社のビルがひしめきあっていました。イエロー・キッドは新聞マンガのキャラクターだから、マクファデン通りからパーク・ロウまでよく来ていたんでしょうか。

 

 上段のいちばん右では、イエロー・キッドはハープ奏者になっています。寝巻きで「恋人にセレナーデを歌ってあげよう」とありますね。イエロー・キッドはときどきロマンチックな子になりますよね。ませてる。イエロー・キッドの右上にあるのは歌詞かな。ホーガン横丁からマクファデン通りに引っ越してきたことを歌っているようです。キャプションには「「400」で演奏できるかもな」と書かれています。400ドル?

 

 下段に移ります。イエロー・キッドは今度は絵筆とパレットを持っていますので、画家になるつもりでしょうか。しかし寝巻きに「芸術は金にならないよ、近頃はだれもフレームだってほしがらないもの(No more people on'y wants frames now a days)」とあります。

 

 これは、アウトコールトの本心かな。漫画家のなかには、画家を志すもなかなか収入がないので、バイトでマンガを描いているという人がけっこういたと思います。

 

 寝巻きには「追伸:これはすべての職業にあてはまる」とも書いてあるのですが、これはどういうことなのか。近頃はどの職業においても、だれもフレームをほしがらない...。もしかしたら「すべての職業」というのはここに描かれてある職業のことで、上の「フレーム」という言葉を、「額縁」という意味でなく「コマの枠線」という意味で使ってるのかも。たしかにここには枠線がないので。

 

 ちなみにキャプションには「すっごいかわいい女の子がポーズをとってくれるんなら、ヌードを描こうかな。ボクお気に入りのバレエの子にしよう、あの子ステキだから」と書いてあります。だれのことだろう...リッカドンナ・シスターズのうちのだれかかな。

 

 次は、ふたつ一組です。キャプションにはそれぞれ、「すごい選手になって、馬術で賞をもらうとなると、すごくお金がかかるな...」「けど、いいジョッキーになって、だれかのために勝つのっていいよね」とあります。寝巻きの言葉はないですね。左側の服(馬術用なんだろうか)は高そうですが、やっぱり黄色です。

 

 それから、釣りですね。「ほら話じゃないよ、魚がなくったって上手にうそつけるもん」と寝巻きにあります。でしょうね。キャプションは「魚釣りなら、かせげるし蓄えも作れるね」。

 

 この釣りのコマだけ、わりとはっきりとした背景です。それ以外はなんか、ぼんやりした煙みたいな色が塗られているんですが、これはこれでいいですね。イエロー・キッドの黄色を引き立てつつ主張しすぎず、コマを読み進めていくうえでちょっとしたリズムを作っていると思います。

 

 最後は、レンガ運びの仕事ですね。キャプションに「これだけはやりたくないよ。もっとかっこいい仕事がいい」とあるとおり、嫌そうにレンガを運んでいます。

 

 描こうと思えば、それなりに工夫して、レンガ運びをしたがらないイエロー・キッドを描くことも可能だと思うんです。たとえば、ホッド(レンガを積んでる箱っぽいやつ)を投げ捨てるところを描くとか。でもそうせず、実際にはしたくない仕事を嫌々やってるところを描くのは、コミック・ストリップのオチとしてはアリだなと。これまでいろいろかっこいいコスプレの絵があって、最後にしんどそうなイエロー・キッドの絵があれば、読者はそれを笑うのではないでしょうか。