いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと象の曲芸

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 1906年9月30日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 今日も象が主役です。一瞬、ニモがどこにいるのかわかりません。よく見るとニモとお姫さまは象の背中に乗っています。カーニバルを開く王様のもとへ急いでいるところでした。

 

 1コマ目で象は土煙をあげながら走っています。そうとうスピードが出ているようです。ニモは「喜ばせようと思ってスピード出してるんなら、そんなことしなくていいよ」と、やはりちょっと怖いみたいですね。

 

 象がただ走るだけでもニモは怖いのに、象は2コマ目で、立ち並ぶ円柱(ボウリングのピンみたいな)の上を渡っていますし、また3コマ目では綱渡りです。なぜ別の動物を使わないのか、いや、そもそもなぜ移動手段が動物なのか、と野暮なことを思ってしまいますが、これはもちろん、サーカス好きのマッケイが、サーカスを再現しているのでしょう。きっと、象を描くんなら芸をさせようと思ったにちがいありません。

 

 王様が開くカーニバルがどんなものかはまだわかりませんが、この象での移動がすでにカーニバルの一部と言えそうです。ただ、ニモは楽しんではいませんね。「きみのお父さんのところまで遠いの?」とか「ここは楽しいとは言えないな」とか、ともかく早く象から下りたいという気持ちが言葉に現われています。

 

 ついには4コマ目で、象が坂を滑り落ちていくなか、ニモは「カーニバルなんか行きたくないよ!」とごねはじめます。お姫さまは「カーニバルは見なくちゃダメよ」と言いますが、ニモはここでいったん夢の世界から離脱です。象には乗っていられましたが、ベッドからは落ちてしまいました。

 

 ところで、象の体の向きはおおむね、読者が紙面を読んでいく方向と合致していました。1・2コマ目では右へ右へと象が動いています。3コマ目では、読者が2コマ目から3コマ目へと、紙面右上から左下へと視線を流すのにあわせて、象も左向きに綱渡りをしています。

 

 最後の4コマ目だけは、読者の視線の流れとは逆に、象は左向きになっていますが、これは4コマ目の形がイレギュラーで、右下に夢オチコマを抱えているものですから、象を大きく描くには左向きにするしかありません。この象の向きは、まるで象がニモの現実世界を避けるようにして坂を下りていっているみたいです。

 

 また象は、右向きや左向きのとき、完全に真横を向いているわけではなく、いずれのコマでも奥から手前に向かってくる角度で描かれています。これは、前回とおなじで、象の接近の迫力も表現したかったということなのかな。あるいはマッケイは象の顔が好きとか。優しい顔をしていますからね。