レアビットとじっさい重要な帽子
1905年5月31日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。
1コマ目の左側に立っている、黒い帽子をかぶった男性が、今日のマンガの主人公です。いつも考えごとをしていそうな目や、ほおの肉のつき方、ふさふさの髪など、いつもの「レアビット」の無個性な登場人物とくらべてずっと特徴のある造形です。なので、この人物はもしかしたら実在の人物がモデルになっているのでは? と思わせます。身なりもよいし、有名人なのではないか。
さらに特徴的なのはこの男性のセリフです。というのも彼はいつも「じっさい重要なのはね...(Point of fact is...)」ではじまる文を口にしているのですね。
1コマ目、この男性は別の男性と会話をしています。「じっさい重要なのはね、こんな背の高い帽子ははじめてということなんだよ。似合っているのかどうか...」「似合っているかですって? とても魅力的ですよ」とあります。彼は帽子を気にしているようです。
2・3コマ目でもおなじで、「じっさい重要なのはね、この帽子はじめてという...」「じっさい重要なのはね、わたしがもういい年の男だということなんだよ」と、男性は、帽子が自分に不釣り合いなのではと考えているようなのですが、対して周囲の人は「いいですよ!」「ステキですよ!」とほめまくってます。そして気づけば、彼のまわりに人だかりができていますね。やっぱり有名人なのかな。
4コマ目で風が吹き、この男性の帽子が飛ばされます。「うわっ、すごい風だ。じっさい重要なのは...」と、例の言葉をここでも言ってる。帽子はこのあとロードローラーでつぶされ、遊び道具として少年たちに蹴り飛ばされ、どこかへ行ってしまいます。男性は「あの子たちが喜んでくれるなら」と、帽子をあきらめたようですね。
ふしぎなのは7コマ目です。男性は「じっさい重要なのはね、こんな風の強い日に、フラットアイアンビルの近くに来るべきじゃなかったということなんだ」とつぶやいているのですが、そのフラットアイアンビル(1902年竣工の超高層ビル)と思しき建物がここには描かれていません。木が二本あるのは見えますが、木と木のあいだに何が描かれているのか、ちょっとわからない。
それにコマ上側の空白部分が気になります。本来はここに何か描かれるはずだったのでは...と思える。そう思ってその他のコマをいろいろ見てみると、人の描き方とかすこし雑な感じがします。マッケイが忙しすぎて、時間がなかったのかな。
8コマ目、舞台はとつぜん海辺になり、男性は遠くの船を眺めています。「あの船にはおもしろい三角旗があるな」と言っていて、ん? どういうこと? と思うのですが、よーく見ると右の帆柱のてっぺんに変な形があります。あまりに小さいので確信は持てませんがおそらくこれは、彼の帽子なんじゃないでしょうか。
彼は船を見ながら「じっさい重要なのはね、わたしは帰ったほうがいいのではということだ」と、またしてもこの言葉を使い、さらには夢からさめても「おっと、じっさい重要なのはね、うとうとしてしまったことだよ」と給仕の人(下半身が描かれてない)に返事をしています。ううむ、だれなんだこれは。