いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットと脱穀機

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 1905年6月7日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 「あれを買おう、あの脱穀機を改良してレーシングカーにしよう」という男のせりふからはじまります。たしかに男の視線の向こうには、蒸気を出す大きな機械が、わらの山のなかに置かれていますね。レーシングカーにするということで、マッケイが描く車はいつも大破してるので、まあ今回もそういうオチでしょう。案の定、マンガのいちばん下には、なにかバラバラの車のようなものが描かれたコマがあります。

 

 脱穀機を購入したあと男はさっそくこの機械に改良を加え、ドライバーに「彼女はどうだい?」と調子を聞いています。ドライバーは「いいよー、秒速1マイルはいくね」と、申し分なしといったところです。秒速1マイル(約1.6キロ)とは、戦闘機よりは速いけどロケットよりは遅い、くらいのようです。ほんとうにその速度が出るなら、オープンカーはまずいですね。

 

 3コマ目ではお金持ちそうな人(オーナーかな)が登場し、準備万端のドライバーと会話をしています。「1000マイルは長いぞ、大丈夫か」「そうですね、タイヤが持ちこたえてくれれば勝てるでしょう。見た目は変ですが、あれは風を切って走りますよ」と、レース直前の不安と期待が交錯しています。

 

 そして4コマ目、いよいよスタートしました。ドライバーは「まずまずの出だしだ、1000マイルを1000秒で走ってみせるぜ」と意気込んでいます。レーシングカーは、あまり動いているようには見えないのですが、よく見るとタイヤのスポークの一本一本が見えなくなっていて、Wi-Fi みたいな模様が描かれていますので、ああ回転してるのか、とわかります。蒸気か煙か、車のうしろにもくもくしたものも見えますね。

 

 脱穀機マシンはこのあと、当初の期待とは裏腹に、調子を落としていきます。5コマ目でドライバーが「カーブが少しキツいな...想定外だ」と、カーブの難しさに苦労しているようです。じっさいに秒速1マイルものスピードなのかはともかく、ストレートの加速には自信を持っていたのでしょう。しかしそれを生かせるコースではなかった。その後も「こんな、こんなのは無理だ!」「カーブこんなキツいなんて聞いてないよ!」という感じで、結局は大破です。

 

 マッケイがマンガのなかでよく自動車を大破させていることについては、彼自身の自動車嫌いが言及されることがあるのですが(わたしも以前それを言ったような気がする)、それとは別に、自動車がバラバラと崩れ落ちてしまうことのスラップスティック的なおもしろさはもちろんあったでしょう。自動車が木にぶつかってボカーン! とか、池に落ちてバシャーン! とか、いまのアニメでもふつうにあります。

 

 また、恐竜の化石が走るエピソードというのも以前ありましたが(レアビットと恐竜の化石 - いたずらフィガロ)、どちらも、大きくかつ精巧にできているものがレース中に崩壊します。壊れてしまうのが惜しいものほど壊れるところを見たい、という気持ちでしょうか。

 

 電車が暴走してニューヨークのビルが壊されるというエピソードもありました(レアビットと暴走列車 - いたずらフィガロ)。コマいっぱいに広がる破片は、まちがいなく読者にショックを与えることができると思いますが、マッケイの場合、クラッシュシーンを描きすぎてて読者がだんだん麻痺していったのではという気もします。