いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと王様とフリップ

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 1906年10月21日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 ニモたちは前回、大砲から発射された砲弾に乗って、カーニバルを開くという王様の宮殿へと向かっていました。砲弾は途中から気球のような乗り物に変化し、ニモとお姫さまはゆっくりと宮殿内へ下りていき、いま、1コマ目で、ようやく到着です。

 

 お姫さまは「フリップはぜったいについてきてないはずよ」と、自分たちのこれまでの移動方法に自信を持っているようですね。聞かれてもないのにフリップの名前を出すとは、これはまちがいなくフラグでしょう。

 

 じっさい、2コマ目で早くもフラグを回収しにかかってます。時計を持つ従者は「ああ、わたしの口からは言えない」と、なにか隠している様子です。お姫さまは「みんなさえない顔ね」とふしぎそうですが、星条旗のコスチュームの男は「なにも知らないからですよ」と、やはりなにかあったようです。

 

 3コマ目でニモとお姫さまはすでに正装し、宮殿内の豪華な階段を下りてきています。重厚さと美しさを兼ね備えた、立派な階段ですね。しかし階段のかげで男が顔をおおって泣いています。ニモは「みんな泣いてるね」と言い、お姫さまも「そうなのよ、わからないわ、どうしてみんなつらそうなのかしら」と言ってます。フリップのことはまったく念頭にないみたいですが、もはや白々しささえ感じますね(笑)。

 

 従者たちは、そんなニモたちのふるまいにしびれを切らしたのか、階段の下からたくさん押し寄せてきて、口々に「大変です!」「フリップが来ました」「なかに入られてしまった!」「王様は完全に驚きあきれています」「お月さまはこれに恥じて顔を隠してしまいました!」「カーニバルがはじまるってときに現われるんだから」と叫んでいます。

 

 お月さまが顔を隠したのはなんでだろう、お月さまのせいじゃないと思うんですが。それともお月さまは、眠りの国の安全やカーニバル開催の責任を負っていて、眠りの国を破壊することのできるフリップ(というか厳密にはフリップのおじさん)が王様の宮殿に出現したことを、責任者として申し訳なく思っているのかな。

 

 5コマ目、フリップがいますね。王様のとなりに堂々と立っています。そして王様に対し「アンタやアンタの娘のことはどうだっていいんだよ、だがな、ニモだ! あいつはこらしめてやる」と、自分の標的がニモであることを告げています。そんな敵視することある? むしろいままでニモに助けてもらったこともあるのに...と思うんですが、フリップはどうやらニモにリベンジしたいようです。

 

 それにしても王様の姿は威厳があります。それにどうですかこの足は。若々しく、たくましいですね。従者たちが言うほど、驚きあきれているようには見えませんが、あるいはもう観念して、フリップの言うことを静かに聞きはじめた、ということでしょうか。

 

 フリップの帽子には Wake Up と書かれています。またお姫さまも「お父さまは手出しができないのよ、アイツは太陽をつれてきて、わたしたちのショーをダメにしてしまうつもりだから」と、やはりフリップの太陽の力に言及して、ニモと読者に、フリップの力を思い出させています。今日はまだ太陽を呼ばないようですね。というより太陽を呼ぶまでもなく、ニモは目が覚めてしまいました。フリップの登場に驚いたからでしょう。

 

 5コマ目の、ニモとお姫さまが下りている階段は、玉座のすぐ近くまでのびていて、階段を下りきるともう王様の足下にくるような空間になっています。この階段を下りる人は、王様に対し上から近づいていくようになっていて、現にニモとお姫さまがそうしているわけですが、そういう空間構造って宮殿としてありなの? と思わないでもない。