いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモとこどもたちの入場

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 1906年11月11日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 無事にカーニバルが開かれることになり、こどもたちが入場してきました。王様はソファーみたいな玉座にすわり、ニモとお姫さまを膝元に寄せて、こどもたちの入場行進をにこやかに見ています。

 

 王様たちのいる観覧席は、入場行進が行われている場所よりも高いところに位置していて、1コマ目から4コマ目まで、王様たちはこどもたちの行列を観覧席から見下ろすかたちになっています。各コマにはそれぞれ6人ほどのこどもたちの行列が描かれていますが、みんな等間隔に歩いていて、また歩くこどもたちの位置も毎コマおなじです。

 

 そのためこれらのコマには、王様の頭部をてっぺんとし、こどもたちの行列を底辺とする、きれいな三角形ができています。王様の二本の腕と、柱にシンメトリックに絡まる蔦が、ニモとお姫さまの頭部に中継された等辺ですね。安定的な構図です。

 

 こどもたちの入場行進は、各国から男女ふたりの行進になっていて、女の子の後ろを歩く男の子が、国名が記された旗を持っています。オリンピックみたいですね。まずイングランドアイルランドスコットランドからはじまり、次いでドイツ・フランス・イタリアと、ヨーロッパ諸国がつづきます。

 

 3コマ目でカナダ・メキシコ・オランダという、よくわからない順番の行列があり、そのあとに日本・スウェーデン・スイスという、これまたよくわからない順番です。日本のこどもの格好は、やっぱり「なんかちがう」感が否めませんね。着物ではあるけれど。女の子は...これはノースリーブを着てるんでしょうか。なかに着ているのは白い半袖の服かな。腕まくりしてるみたいですが。赤い振袖がよかったなあ。そして男の子のほうも、袴がよかった。

 

 ニモとお姫さまの会話はこのような感じです:「みんなステキだね」「ほんとにそうね」「みんなどこに行進していってるの?」「祝宴会場に向かってるのよ」「祝宴? みんなすわってご飯食べるの?」「そうよ、ショーがはじまる前に、わたしたちもいっしょに食事するのよ」「フリップ・フラップはどうなったかな」。

 

 最後のニモのセリフと同時に、王様のもとにひとりの衛兵が現われ、非常事態が起こったことを告げています。三角形が崩れそうです。フリップの話が出てきそうな文脈では全然なかったのですが、ニモはフリップを呼び寄せたい気持ちをずっと持っていたんでしょうかね。思わず言ってしまった。

 

 5コマ目でとつぜんフリップが姿をあらわしました。どこからどう来たのかまったくわからないんですが、いつのまにか三角形の底辺の中央、コマの前景中央に立っています。帽子とマントを脱ぎ捨てていて、「いまここでケンカしようってんだな、受けて立つぜ」と臨戦状態です。

 

 王様はといえば「衛兵を呼べ、陸軍と海軍もだ」と、王国の総力をあげてフリップをつぶしにかかろうとしています...。大人げないような気もしますが、たしかにフリップには眠りの国を雲散霧消させる力がありますので、仕方ないか。

 

 こどもたちの行進は、フリップの侵入によって止まってしまいました。このコマにいるこどもたちの出身地もさまざまで、ハワイ・アラビア・アラスカ・アメリカ(インディアン)・清・ダホメ(現在のベナンにかつてあった国)とあります。ノルウェーとロシアの旗も見えますね。

 

 当時の欧米列強から見ればいずれも「後進・周縁・未開」の地で、幸か不幸かヴォードヴィル向けの人材を多く輩出する地域でもあります。トリックスターのフリップが登場するにはふさわしいコマと言えるかもしれません。