いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモとフリップ絶体絶命

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 1906年11月18日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 カーニバルのじゃまをしつづけるフリップに対して、王様は前回、衛兵だけでなく陸軍と海軍も呼び寄せていました。人ひとりに軍隊を持ち出すとはかなり必死ですね。そこまでしてフリップの乱入を阻止したいのか。

 

 王様はフリップを衛兵に捕らえさせ、自らはカーニバルをつづけようとしています。立ち去る王様のマントが1コマ目の左端に見えています。お姫さまは「祝宴会場に行きましょう、ニモ。フリップのことは彼らにまかせて」とニモを促します。でもニモは「ああいうふうに対処するのは好きじゃないよ」と、強制連行されるフリップを見て同情しています。

 

 2コマ目と3コマ目もおなじような会話です。「感謝祭のディナーを食べたくないの?」「食べたいけど、こっちを先にしよう」「フリップはじゃま者なんだからほうっておきなさいよ」「ほうっておけないよ! フリップを見に行ってくる」。引き止めるお姫さまと、フリップのことが気になって仕方がないニモです。

 

 これらのコマの背景には左から右へと進む隊列が描かれていて、それがモノトーンなので、ニモとお姫さまのやりとりが目立っていると同時に、軍隊の非人間的な性格も表れているように思います。

 

 4コマ目ではフリップがひとり、城壁の前に立っています。「これで最後かな。オレのガチョウは料理されちまう。オレもおしまいだ」と、観念した様子です。というかガチョウ! えー、そうか、感謝祭だから...でもあのガチョウかわいかったのにな。

 

 フリップにはスポットライトが当てられ、その前に隊長が剣を持って立っています。「しっかりとねらいを定めよ! 用意はいいか!? ねらえ!!」と大声をあげていて、まもなくフリップが処刑されるところですね。隊長は無数の射撃員たちと向きあっていて、一定の間隔で大砲も設置されています。フリップを城壁ごと粉々にするつもりです。

 

 無数の銃と大砲が向けられ、スポットライトまで浴びているフリップは、読者の視線を否応なく引きつけています。手前の隊長の大きな身ぶりも、読者をコマの左端に注目させるのに役立っています。それと、大砲がコマの左下から右上にかけてずらーっと並んでいて、砲身の側面が間近に見えるので、大砲の重量感もよくわかります。

 

 コマの中央には、扉を開けて処刑場に入ってきたニモが描かれています。まるで上手から舞台に入ってきたようですね。ニモはフリップのところまでなんの躊躇もなくやってきて、5コマ目でフリップの前に立ち、なにもいわず両手を上げています。「撃たないで!」もしくは「主役はボクだ!」というメッセージなのは明らかです。

 

 つづけてお姫さまも入ってきました。フリップはほっとけてもニモはほっとけなかった。それに気づいた隊長が「待て、王女さまだ! 撃つな!」とあわてて射撃員たちを制止します。フリップは間一髪セーフでした。

 

 フリップは「わかったよ、出ていくよ。おまえのじゃまはしないさ。ディナーに行ってきな」と、自分をかばったニモに感服したのか、撤退を宣言します。まあ、フリップがこれで二度とニモの前に姿を現さなくなるとは、到底思えませんが。

 

 それにしてもニモはすごい肝がすわっているというか、まったく恐れることなくフリップの盾になったのはたいしたものですね。これほどの熱い思いをお姫さまには向けていないような気もして、ニモはフリップと遊ぶほうが好きなんじゃないか。

 

 4コマ目と5コマ目の右端に描かれている射撃員が、目の前のドラマにまったく表情を変えていないんですよ。冷静すぎます。隊長の声しか聞こえていないのではないか。完全にマシーンと化していて、こんな怖い人たちが大勢いる前にニモは躍り出たのかと思うと、ニモは度胸がありますね。