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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットとレアビット・タイヤ

レアビット狂の夢

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 1905年6月28日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 最初のコマからすでにおかしな言葉が聞かれます。タイヤがパンクした自動車の人たちに対して放つ、このあたりに住む男のセリフです。「全部ダメになった? 修理工場は10マイルは先だぞ。レアビット・タイヤ試してみるか? おっかあがレアビットでタイヤつくれるから」だそうです。ほほう。

 

 2コマ目、妻がなにか熱々のものをトレーに乗せてやってきました。夫は「ゴムよりこのレアビットのほうがいいぞ。おいおっかあ、熱いのをくれ。おれたちぁこれまで何度も、こうやってレアビットを道行く車につけてやってるのさ」と言いながら、タイヤを修理中です。

 

 で、無事にタイヤが直ったのが3コマ目です。車の一行は「すごく助かりました! あなたがたは命の恩人ですよ!」と、感謝を述べながら立ち去ろうとしています。直してくれた男は「レアビットはいいぞ、まちがいない」と、レアビット・タイヤに絶対の自信があるようですね。

 

 車はまた走り出します。運転手でしょうか、座席の前の人が「こりゃあほんとによくできてるな。あの人、特許取ってるんだろうか」と、レアビット・タイヤに満足しています。後部座席の女性は「チェーフィング・ディッシュ(chafing dish:Chafing dish - Wikipedia, the free encyclopedia)とチーズがほしいわ」と、レアビットを食べたくなってきました。いい匂いでもするんでしょうか。

 

 しかし、当然ながら物語が平穏に終わることはありません。5コマ目から雲行きが怪しくなってきます。下り坂で「スピードが遅くならないみたいだ」と言っていて、スピードが出すぎたせいかタイヤが変形しはじめています。「ちょっと止まってタイヤを見なくちゃ! タイヤが...」。

 

 運転手は「ダメだ、フィードバルブが壊れてる」と分析しています。フィードバルブというのはたぶんブレーキを踏んだときに空気が送られる場所だと思うので、要するにブレーキが壊れたんじゃないかと。女性はすでにタイヤの異常に恐怖しています。「ああ、わたしたちどうなるの!? 見て、タイヤが! チーズが!」。あまりの摩擦熱に、タイヤがどんどんとろけるチーズになっています。

 

 「止められないの!? なんでもいいから早くしてよ!」「どうなってしまうの!?」「助けて!!」と女性が叫びつづけるなか、溶けたチーズがコマを埋め尽くしています。ただ、すでに下り坂は終わっていて、車がなにかに激突しそうな気配も意外と感じられません。女性はおそらく、視界がチーズで埋まっていく様子が怖いのでしょう。

 

 夢オチの女性の顔が滑稽ですね。「助けて! 死ぬ!」と叫ぶこの口と、恐怖しか見えていない両目の点。このエピソード中、唯一の表情の描写ということもあり、ついつい見入ってしまいます。