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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドとルーヴル美術館

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 1897年2月28日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 「ルーヴルにて:イエロー・キッドが美術の傑作を見にいく」というキャプションです。ルーヴル美術館が舞台ですね。ただ、イエロー・キッドたちは美術品を見にきただけではなく、なかにはパレットと絵筆を持ってるこどももいます。模写してるようですね。所蔵品を汚されるんじゃないかと学芸員はヒヤヒヤしてるのではないか。

 

 イエロー・キッドも絵描きの格好をしてます。「ひとを高くあげるのに、竹馬ほどいいものはないよね。みんな頭に血がのぼった連中なんかじゃないけどさ、ボクが足をすべらせたら、だれかをデコレーションしちゃうな。デコレーションって言ってもレジオンドヌール勲章じゃないよ」と、寝巻きにはあります。decorate の意味「飾る・ペンキを塗る・勲章を授ける」を使ったユーモアですね。

 

 それよりイエロー・キッドはそもそもなんで竹馬に乗ってるのか。ミロのヴィーナスに彩色でもするんでしょうか。あ、でもパレットに「ボクの新しい服を作ってみるのもいいね」と書いてる。ミロのヴィーナスにはすでにべつの少年が(テレンス・マクスワットかな)乗りかかっていて、「ヴィーナスはどうやって舞踏会の服に身を包んでいたんだろ」と言ってます。ヴィーナスもたまらず「腕があったらガキどもをひっぱたいてやるのに」と暴言を吐いてますね。

 

 ヴィーナスのすぐうしろには、よく持って来れたなといわざるを得ない四面プラカードがあります。「今夜ムーランルージュでイヴェットとの食事に招待されてること忘れるなよ」とか、「あのヤギ、巨匠の絵をぜんぶ食べちまった」とか書いてありますね。たしかに画面右下には額縁を首にかけているヤギがいます。「古い絵でもかたくなってないね」だそうです...なんということを。

 

 意外なのは、こどもたちやヤギが好き勝手やってるのに、大人たちがわりとリラックスしてることなんですよね。たしかに、イエロー・キッドの足下で絵具がかかりそうになってる婦人(女優のサラ・ベルナールSarah Bernhardt - Wikipedia, the free encyclopedia)はちょっと表情がかたいんですが、それ以外は館内をにこやかに歩いています。

 

 それと目を引くのはピエロです。前景に大きく描かれていて、大仰な身ぶりだし、それにミロのヴィーナスのように全身が白いのでとても目立っています。イエロー・キッドのほうに手をのばして、なにか訴えているみたいですね。

 

 ピエロの足下では、黒人少年がピエロの服に「きみがそんなに風変わりじゃないなんてボクにはわからないね」と書き終えたところです。これは黒人少年がピエロに対して言った言葉なのか、それともピエロがイエロー・キッドに対して言った言葉なんでしょうか。だれが主体の言葉なのかわかりませんが、これまでの「イエロー・キッド」の慣例にしたがえば、キャラクターは自らの服で発話することがふつうですので、この言葉はピエロの声を黒人少年が代弁したと考えるのがいいのかな。

 

 「イエロー・キッドと世界一周」のタイトルの下には円で枠どりされた小さな絵があり、こどもがイエロー・キッドの後頭部に顔を描いています。この顔はすぐさましゃべりそうですね。イエロー・キッド本人と、イエロー・キッドの絵とが、マンガのなかで区別できません。