いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモとサンタクロースとご両親

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 1906年12月23日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 フリップがいませんね。魔女もいません。お姫さまとニモはふたりを置いてきたみたいです。

 

 最初のコマの左側に、そりとトナカイが準備されています。サンタクロースのものでしょうね、おそらく。ニモは気になっているみたいですが、お姫さまが「止まっちゃダメよ、ニモ。サンタクロースが待ってるわ」と言って、ニモを歩かせようとします。サンタクロースはここには来ないのか。赤と白のクリスマス・コスチュームの男も「サンタクロースはもうすぐ出発してしまいます。会いたいのなら急いで」と言ってますね。じゃあこのそりとトナカイはだれのものなんだ。

 

 ニモは歩きつづけますが、気になる場所では立ち止まってしまいます。2コマ目ではすたすた進むものの、3コマ目の「おもちゃ」と書かれた扉の前に来ると「ここに入ろうよ!」と扉のほうに吸い寄せられてしまう。お姫さまの無言のプレッシャーで、ニモはしかたなく次のコマへと進んでいきます。

 

 4コマ目で、さっきからニモの前を歩いている紅白男(サンタクロースに案内してくれているのかな)がふりむき、「立ち止まっちゃいけませんよ」と注意しています。ニモはおとなしく聞いていますね。「人形」の部屋は魅力がないからでしょう。

 

 ニモは5コマ目の「女性」の文字をちらと見つつ、お姫さまに「止まらないで」と声をかけられていることもあって、この場はなんとか通り過ぎます。「女性」ってなんでしょうね。お母さんのことを思い出したか、それともお姫さまになにかプレゼントを考えてるのか。

 

 しかし6コマ目の「自転車」の前に来ると、とうとうニモも「ここには入りたいよ!」と主張しはじめます。お姫さまは「ダメよ! 止まっちゃいけないわ」と反対していて、真っ向勝負ですね。ふたりが口論とは、なかなか珍しいです。フリップがいないとニモも自己主張するのかもしれません。お姫さまからしてみれば、厄介者のフリップがいなくなったと思ったら今度はニモが不満を言い出した...と、なかなかうまくいかないなあと思ってるでしょう。

 

 ニモの立ち止まりたい気持ちと、お姫さまの歩きつづけたい気持ちというのは、読者がひとつのコマにとどまるのと、次のコマに移行するのとに似てるというか、もうおなじと言っていいとさえ思います。マンガは複数のコマを順に追うよう要請するメディアですが、読者は気になるコマでは、ニモと同様に視線を止めますので。そういう意味でニモは読者の代表です。

 

 7コマ目の「オフィス」を素通りして、一行は8コマ目でサンタクロースに出会います。と同時に、なんとニモのお父さんとお母さんもいます。眠りの国では初登場ですね。ニモは「パパとママだ!」と驚き、お母さんも「ニモじゃない! あの子どうやってここに来たのかしら」とびっくりしています。

 

 お父さんはサンタクロースから木馬を受けとっています。「これはうれしい! あの子、いい子にしてたんですよ」と喜んでいます。この部屋の壁には「いい子たちの名前」がずらーっと書かれていて、当時のこども読者たちはきっと「自分の名前もあるといいなあ」と思ったかもしれませんね。あるいはこのコマに自分の名前を書き込むとか。