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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドとスフィンクス

イエロー・キッド

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 1897年5月2日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 いやー、なんなんでしょうねこれ。いつもの「イエロー・キッド」と雰囲気がぜんぜんちがう。登場人物がイエロー・キッドしかおらず、そのイエロー・キッドは、画面左下から、画面の大部分を占めるスフィンクスと対峙しています。顔は見えず、うしろ姿だけですね。背中には「そんなにあったかそうじゃないね」と書いてあります。たしかに、スフィンクスは服を着てませんから。

 

 登場人物がひとりだけですし、また看板やプラカードもなく、しゃべる動物もいなくって、絵のなかの手書きの文字といえばイエロー・キッドの寝巻きの三行だけですので、画面がまったくさわがしくないです。ふつうなら、スフィンクスの頭にのぼって遊ぶこどもとか、スフィンクスの頭から落下するこどもとか、落書きするこどもや商売をはじめるエジプト人などがいたっておかしくないのですが、この静けさはどうしたことか。

 

 絵のいちばん下には活字文が重ねられていて、「イエロー・キッドのひとりごと」とタイトルがあります。だいぶ長いことつぶやいています。

 

 さあ、スフィンクスだ!

 ボクがこの旅をはじめた

 ニューヨークから、バワリーからずっと

 考えていたのは、スフィンクスを見たら

 目を回しちゃうだろうなってことさ

 いやあ、やってきた!

 見物しにきました

 

 ボクね、みんなに言ったんだよ、エジプトに行こうって

 それでスフィンクスを見ようってさ、スフィンクスは評判どおりの、

 世界でいちばん偉大なものだからって

 でもさ、みんなノーだって、行かねえよミッキーって言われたよ

 そんなにスフィンクス見に行きたけりゃ

 ひとりで行ってこいよ、おれたち待ってるから、だってさ

 だからボクきたよ、きました! いやあ、

 これが、ボクが会いにきたものなんだなあ

 なんていうか、気の毒な感じだね

 

 ねえ、お嬢さん、その顔どうしたの?

 トロリーバスにひかれちゃったのかな

 それとも死の急カーブのところを走ったの?

 ちょっと老けて見えるよね、ところで、そんなにあったかそうじゃないね

 パラソルもってないけど寒そうだよ

 きみが若いころはさぞや魅力的だったろうね

 男はみんなやってきて、きみを口説いてたはずだよ

 そのあいだ、きみは一言もしゃべらないのに

 

 生意気なこと言ってごめんね、しまったな! つい口から出ちゃうんだよ!

 ああそうだ! みんなといっしょにいるフーリハンおばさん、

 彼女がスフィンクスになれないかなあ、それだとすごく助かるなあ

  あ、そういえばさ、

 なにがうれしいかって

 ここ入場料とらないよね、入場料あるんなら

 ボクお金払わなきゃだよね、それはすっごくつらいなあ

 かなりしんどいよ、スフィンクスさん

 ひとりでずっと、ここにすわってるんだね

 

 服を着替えるチャンスもないしね

 ねえ、リズだったら気が狂うと思うよ

 でもリズはぜったいスフィンクスじゃないな、しゃべりすぎるから

 じゃあね、スフィンクスさん、顔がもうちょっとなんとかなるといいね

 でもそれはきみのせいじゃないけどさ

 傷ついたんならごめん、だけど、もしきみがさ、

 すごいものが見れるぞとはるばるニューヨークからやってきて

 じっさい見てみたらたいしたことない、ってことになればさ

 きみだって相手を傷つけたい気持ちになると思うよ

 

...えー、前から言ってることですが、訳文はてきとうです。「イエロー・キッド」の英語はわたしには難しすぎます。なんとなくの雰囲気だけわかってもらう、ということで。

 

 イエロー・キッドは結局、スフィンクスにがっかりしてるようですね(笑)。鼻はねー、しかたないですね。だいぶ昔になくなったようですので。スフィンクスの前足も砂に埋もれてます。ギザのスフィンクスの全身があらわになるのは、イエロー・キッドが訪れてからおよそ30年後の、1925年からの発掘作業においてのようです(Great Sphinx of Giza - Wikipedia, the free encyclopedia)。

 

 それにしても、いくら相手がしゃべらないからといって、イエロー・キッドは言いたい放題ですね。スフィンクスは丁寧に描かれていて、アウトコールトはスフィンクスに対して敬意をもっているように思いますが、イエロー・キッドはそうでもないのかな。スフィンクスがとつぜん例のなぞなぞを出してきたら、イエロー・キッドはちゃんと答えられるのかしら。

 

 前回の「カナル・グランデ」にも出てきた言葉「死の急カーブ(dead man's curve)」が、今回もあります。当時ニューヨークで、死傷者が多発していた線路のことを言っているのだと思います(Union Square and the demise of 'Dead Man's Curve' - The Bowery Boys: New York City History)。