いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットとエレクトロソポリス

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 1905年7月26日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 ふたりの男性がいすにすわって話をしています。「先生、うまく説明できんのですが、どうも変なんです」「不安なことがおありですかな。脈をはかってみましょう」とありますので、患者と医者です。どうでもいいけど医者が白衣を着るのはいつからなんでしょうね。

 

 患者が脈をはかってもらおうと、医者に手をさし出し、医者がその手をとります。すると、にぎった手から放射状に線が出てますね。医者は宙に舞いながら「うわ! これはまさにエレクトロソポリスだ、本で読んではいたが、見るのははじめてだ」と叫んでいます。エレクトロソポリス(electrosopolis)、名前からして電気に関係する病気でしょう。放射状の線は、医者が電気ショックを受けているということですね。

 

 3コマ目、男性が「わたしにさわるとみな感電するって先生言ってたな。どうすればいいんだ...」とつぶやきながら歩いていて、足下で野良犬が感電しています。じっさいどうすればいいのやら。

 

 男性がそんな奇妙な病気にかかっているともしらず、べつの男性が近寄ってきました(4コマ目)。「やあ、判事! お元気ですか」と挨拶をしていて、握手のために手を前に出しています。「ダメだダメだ、わたしにさわってはいけない。わたしから離れてくれ...」と、病気の判事はあわてて返しますが、間に合わず、近づいた男は「どうしたんですか、具合でも悪いんですか」と言うやいなや感電してしまいます。

 

 判事は「どうしようもないんだ。許してくれ」と、感電させてしまったことをわびるのですが、エレクトロソポリスのことなど一般市民は知る由もないので、衝撃を受けて倒れた男は「どうしてわたしを殴るんですか、判事」と、いまのが判事に殴られたものと思ってしまいます。さらに、折悪しく、向こうから警官がやってきました。

 

 「そうじゃない、病気なんだ」と判事は訴えますが、まわりからは誤解されつづけます。やってきた警官も判事に近づくものの、やはり感電してしまう(6コマ目の警官は白いんですが、7コマ目では黒く塗りつぶされていて、同一人物とはわかりにくい...感電して脱げてしまった帽子があるので警官とわかります)。

 

 判事は警官や群衆をともないながら帰宅します。出迎えた母親に対して、判事は「ダメです! かあさん、わたしに触れちゃいけない」と、さきほどからおなじ発言をくりかえしていますが、母親はやはり意味がわからず「触れちゃいけないですって? どうしてなの、触れますよ、あたりまえでしょう」と言ってます。おそらく、帰ってきた息子をハグするつもりでしょう。

 

 「エレクトロソプリス(electrosoplis)の症例なんだ」と判事はつけ加えますが、ここでも間に合わず、母親も感電します。母親は「やめて! やめてちょうだい!」と空中でひっくり返りながら大声をあげています。親子のあいだにとつぜんシザーハンズ的な状況が発生してしまって、判事はかわいそうですね。

 

 それにしても、主人公はどうして判事でなければならなかったのか。思い当たることといえばせいぜい、「症例」という意味の英語 case が「訴訟」の意味にもなる、ということくらいで、いまいち決め手に欠けるかな。

 

 最後の夢オチ、この夢を見ていたのは判事の義理の息子でした。となりで寝ている妻に対し「きみのお父さんの夢を見たけど、もしきみがその内容を知ったら、もうぜったいレアビットを作らないと思うな」と、夫がわりと落ちついた表情で話しかけています。なんか、判事の母の夢じゃないところ、手が込んでますね。