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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモとすべりこみアウトのフリップ

眠りの国のリトル・ニモ

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 1907年2月3日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 前回のつづきで、フリップはニモたちを脅しています。「暖房を入れるか、あったかい服をもってくるかだ、さもないと太陽を呼んでぜんぶ溶かしてやるからな」。氷の国で暖房を入れるのは無理としても、服をもってくるくらいならできますね。お姫さまはアイシクルに「冬用の服をもってきてちょうだい、そうしないとフリップがその力を見せつけることになるわ!」とお願いします。また、おなじふきだしで「わたしたちはゆっくり歩いてるからね、フリップ」と、あとから追いついてくるようフリップに伝えています。

 

 次のコマでは、アイシクルはニモとお姫さまに、べつの家来を紹介しています。「ミスター・スリート(sleet:みぞれ)、こちらは眠りの国の王女様とご友人のニモ様だ」「お会いできてうれしいです」。アイシクルはフリップに服を用意するので、かわりにスリートに案内をお願いするのでしょう。

 

 3〜6コマ目は、ニモたちが左から右へひたすら歩くコマの列です。平坦ではなく、途中に階段があって、コマにおけるニモたちの位置が変化することで、歩くだけの単調さが避けられています。この間の会話はこんなふうになっています。

 

スリート「ジャック・フロスト様のところへおつれいたしましょう。水晶の間であなた方をお待ちです。待ちきれないご様子ですよ!」

お姫さま「もうひとりいるのよ、フリップっていうの」

スリート「ああ、うかがっております! ゆっくり歩いていれば、わたしたちに追いつけるでしょう」

お姫さま「いまごろは服を着込んでいるわね、ここはフリップには寒すぎたのよ」

スリート「そうですね。こちら、階段があります。そりの乗り場として使われているのですが、ここですこしお待ちいただけると...」

お姫さま「フリップがくるまでね、わかったわ、フリップを残していけないもの」

スリート「はい、そのとおりです。それとわたしはこれから、みなさんが到着したことをジャック・フロスト様に伝えてきますので」

 

...ニモはぜんぜんしゃべらないな。ただつれられていってるだけですね。ニモはお姫さまといっしょのときは、基本的に受け身の姿勢です。フリップがからんでくれば、ニモはもっと生き生きするんですけれど。

 

 そのフリップ、7コマ目であらわれました。「急がないと追いつけなくなるぞ!」と、赤いコートを着て走っています。手袋とマフラーもしてますね。で、次のコマですべってしまいました。「わあ! すべった! この床、なんてすべりやすいんだ...あ、あいつらだ!」

 

 「あいつら」とはもちろん、フリップの視線の先の、次のコマにいるスリートたちですね。スリートはちょうど「ではこれで。そりを手配して、それでみなさんをすばらしい場所へご案内いたしますので、お待ちください」と言って、いったんこの場を離れようとするところでした。

 

 そこへ、10コマ目、フリップが勢いよくすべってきました。フリップはスリートの足をすくいあげ、スリートのからだの下にもぐり込んでいます。「なんだこりゃ、象かよ!」と、スリートの巨体にあわてています。

 

 スリートの巨体が地面に落ちた衝撃はすさまじく、床は割れ、背景の柱や天井も一瞬で崩壊してしまいました(11コマ目)。この程度で壊れてしまうとは、フリップが太陽を呼ばずとも、ここは簡単なことで失われてしまう世界なのかな。とつぜんの崩落にニモは「ママ!」と叫んでいます。やっぱりニモはフリップが近くにいるとようやくしゃべりますね。

 

 ところで、ニモたちがゆっくり歩いている3〜6コマ目は、コマが小さく、フリップが追いかけてくる7〜9コマ目は、各コマがすこし横長に広がっています。コマの数が、上の列は四つ、下の列が三つです。マッケイは、読者が視線を落ちつける数をコントロールすることによって、「ゆっくり」および「急いでいる」ことの印象を読者に与えようとしたのかもしれません。と同時に、一列あたりのコマの数が四つ、三つ、ふたつ(夢オチのコマを除けば)となっていて、見た目のリズムも生まれています。