いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドとクロンダイク・ゴールドラッシュ

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 1897年9月26日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 前回の新聞掲載が5月30日でしたので、およそ4ヶ月ぶりですね。この間、アウトコールトの「イエロー・キッド」は『ジャーナル』にまったく掲載されませんで、久々に出た! と思ったら意外と小ぶりの絵です。大きさ自体は新聞紙面の半分のサイズですが、人物の数がいつもよりずっと少ないですね。

 

 タイトルは「イエロー・キッドはクロンダイクで権利を主張する」です。以前、「レアビット狂の夢」だったかな、べつのマンガにも「クロンダイク」の名が出てきていたような。当時、アラスカとの境界線に近いカナダのクロンダイクで金鉱が発見され、話題となっていました(Klondike Gold Rush - Wikipedia, the free encyclopedia)。イエロー・キッドも一攫千金を目指してはるばるニューヨークからやってきたわけです。

 

 イエロー・キッドは「ボクはフリーゴールド賛成だな。この鉱脈が尽きないかぎりは、鉄道をつくれちゃうくらいのウィスキーが買えるよ。もしこれが夢だっていうんなら、もうぜったいに鉱脈を掘りあてたりするもんか」と言ってます。胸ポケットには小型ストーブが忍ばせてありますね。寒いからでしょうけど、やけどしそう。

 

 「フリーゴールド」とは金の自由鋳造のことで、少しまえの大統領選挙の争点だった「金本位制か金銀複本位制か」問題のことを言っています。そのころのイエロー・キッドは「フリーシルバー賛成」、つまり銀の自由鋳造を認めろというものでしたが、いま、目のまえに金の鉱脈が出てきたもんだから、イエロー・キッドはあっさり転向しましたね。

 

 それと、ひとまず「鉱脈を掘りあてる」と訳した箇所、原文は hit de pipe ですが、これは「麻薬を吸う」という意味でもあり、つまり「起きてがっかりするような夢を見るくらいなら、もう麻薬なんてやらない」と解せます。画面右下でヤギが「オレのパイプはなくならないといいな」と、パイプを口にくわえながらつぶやいていて、pipe の語の多義性を示しています。

 

 イエロー・キッドが掘りあてた場所には、金というよりすでに金貨が山のように積まれています。そのうえでは、金のサクランボのようなものが三つ、ひときわ目立っています。これは質屋のシンボルで(Pawnbroker - Wikipedia, the free encyclopedia)、岩肌に据えつけられた板には「イエロー・キッドの採掘権:規模はそんなに大きくないけれど、これは自然がつくりだした質屋です。きみの大当たり(jackpots)について話を聞かせてよ、こっちは鋤(spade)ひとつでオープンしたんだ」とあります。ジャックポットやスペードという言葉は、ポーカーを連想させますね。

 

 今回は、イエロー・キッドだけでなくモリー・ブローガンも服を使ってしゃべっています。「わあ! 驚いた、女の人がいないじゃない、こんなに金があるっていうのに」。女性は金に目がない、ということを言いたいのかな。まあ「キツい・汚い・危険」の仕事場ですし、女性がやろうとしても男性がそれを止めるかもしれません。ただ、モリーはふだんマクファデン通りのスラム街にいるので「3K」にはある程度慣れているとは思う。

 

 画面左上、飛び降りる少年が小さく描かれています。「いい場所に落ちるといいな」ということで、彼も金鉱を目指しているのでしょう。ほかのマクファデン通りのこどもたちは、イエロー・キッドが見つけた自然の質屋に殺到してきていますが、飛び降りるスリッピー・デンプシーだけは独立独歩というか、ひとり自分のペースを貫いています。