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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドとニューヨーク五番街

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 1897年10月10日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 「イエロー・キッドがニューヨークの街を視察する」。さすが、次のニューヨーク市長を目指すだけあって、はやくも政治的な活動を行っています。うしろには友だちを何人も引きつれて、まるで立派な大臣のようですね。

 

 イエロー・キッドの寝巻きのことばは「いやあ、ナポレオンのアルプス越えのことを思い浮かべちゃうなあ、五番街にアルプスはないけどさ」。

 

 ナポレオンのアルプス越えとは、1800年、イタリア北部を支配していたオーストリア軍を打ち破ろうと、ナポレオンがフランスからアルプスを越えてイタリアに進軍したことを言っているのでしょうが(これを描いたジャック=ルイ・ダヴィッドの絵画が有名です:Napoleon Crossing the Alps - Wikipedia, the free encyclopedia)、そういえばたしかに、イエロー・キッドが立っているところは山のように盛り上がっています。

 

 ニューヨーク五番街の地面は深く掘られていて、パイプが通されています。「1ドルガス」と書かれているのでガス管でしょうか。インフラ工事ですね。五番街といえば高級な商店街というイメージで、そういえば画面左上にお金持ちっぽい身なりのひとたちが歩いているのが見えます。

 

 このひとたちのすぐ下では、パイプに乗った警官が「おまえら、高級ブランド街までくるんなら、おれが行儀ってものを教えてやる」と言ってます。イエロー・キッドたちにむかってのことばでしょう。教えるときは左手の警棒が役に立つでしょうね。

 

 警官の近くの立て看板には「五番街では自転車や自動車は通行不可」と書かれています。車両はダメのようです。看板にはさらに「この規則を破る者は自らの首を折るだろう・障害競走やクロスカントリーも不可」とあって、そこまで脅さなくても...馬に乗るのもダメなのか...と、なかなか厳しい感じがあります。しかし、画面右側に視線を動かせば、そこには御者を乗せたヤギ車が。ヤギが五番街をどう走っていくのか、楽しみです。

 

 ヤギのそばでは少年がこっちをむきながら四面プラカードをもっています。「五番街は評判ほどよくねえな、おもしろいもんも埋まってねえし」だそうで、マクファデン通りのガキどもはたしかヴェネツィアに行ったときも当地をディスってましたけど、なんかそういうふるまいが身についているんでしょうね(笑)。あと、いま思ったんですが、画面左上を歩くお金持ちたちは、イエロー・キッドたちのほうをまったく見ていない...たぶん、ガキどもと関わりたくないんじゃないでしょうか。

 

 イエロー・キッドのうしろを歩くキティ・デュガンの大きな帽子には「メロードさんだけが金になる石(paying stone)というわけじゃないわ」と書いてます。当時のダンサー、クレオ・ド・メロードCléo de Mérode - Wikipedia, the free encyclopedia)のことで、キティの顔もメロードに似ています。自分もスターになってやるわ、という自信を感じます。それと、paying stone と paving stone(舗装用の敷石)とはスペルが似てるのですが、これはたまたまかな。

 

 画面右下でくさそうに鼻をつまむ少年も気になるのですが、わたしがいちばん目を離せないのは、画面中央、イエロー・キッドのすぐうしろで驚愕の表情を浮かべるモリー・ブローガンです。いつもとちがって正面をむいておらず、左側やや後方からのアングルですが、陰影線が顔をおおっていて目は暗く、ちょっとこわいんですよね。イエロー・キッドの顔が明るいだけに、際立ったコントラストをなしています。