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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットとアヘン窟

レアビット狂の夢

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 1905年8月19日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 「チャイナタウンの中国人ならみんな知ってますよ。アヘンを吸いたいんなら用意しましょうか、アヘンを準備できる中国人がいるから」「いや、わたしが望んでいるのはアヘンを吸うことというよりも、実体験なんだよ。どういう状況なのかを学生に教えるためだし、わたしも学ぶのさ、調査したいんだ...」。いきなりとんでもない会話です。どうやら今回はアヘンがテーマのようですね。

 

 チャイナタウンにくわしい男は、教育者とおぼしき眼鏡の男を、2コマ目で中国人に紹介しています。「プロウブ教授(Professor Probe)、こちらがソップさんです。ソップさん、この方がパイプを吸いたくて、ちょっと薬を準備してもらいたいそうなんですよ...」「ええ、ソップさん、わたしは教育のために、じっさいにアヘンを吸ってみたいんです」。教授の名前 probe は「探る、調べる」という意味で、まあその名にふさわしい行動ではありますが、いやあ危険ですね。弁髪の中国人は「お金たくさんもってきたか」と、金さえもらえればなんでもいいという反応です。

 

 3コマ目、プロウブ教授はベッドのような場所にすわって、服をぬいでいます。アヘン窟(Opium den - Wikipedia, the free encyclopedia)でしょう。「そうか、要点は、窮屈な服や靴はぬいでしまうということか、これは覚えておかなければ。さあ、薬をもってきてくれ」。なるほど、楽な格好でやるんですね。中国人は教授の服をあずかりながら「楽にね、窮屈ダメ」と、片言の英語でやり方を教えています。

 

 教授は今度は横になっています。「なるほど要点は、丸く転がして、円盤のかたちにするということなんだな...」。アヘンのやり方を本気で勉強してますね。アヘンを吸う具体的な方法はわたしにはわかりませんが、このコマは、アヘンに火をつける直前の段階なのかな。中国人は「アヘン毒たくさん、わたし転がす、いい薬、わたしとても上手」とか言ってるのかな...こいつの英語わかんねえ。

 

 5コマ目、教授はパイプを吸いはじめました。「わかったぞ、要点は、この放出物を吸い込んで、丸いところから細長いところへと渡らせるということだ」。おそらく、パイプの先のほうについている丸い鉢のなかにアヘンが入っていて、その下にランプを置き、鉢をあたためてアヘンを気化させてそれを吸い込む、というやり方なんだと思います。

 

 中国人は「たくさん吸ってね、サム・ヒル(Sam Hillee)みたいにね」と言っていて、サム・ヒルとは「悪魔」の婉曲表現ということですが(Sam Hill (euphemism) - Wikipedia, the free encyclopedia)、悪魔みたいに吸えっていうのはどういうことなんだ。アヘン好きのサム・ヒルっていうのがじっさいにいたのか。

 

 ところでこのコマ、右下にへんな動物がいます。ドラゴンのような顔ですね。悪魔?

 

 このドラゴンは次のコマで教授のまえに姿をあらわします。教授にはドラゴンが見えているのかどうかわかりませんが、中国人に対し「じつに愉快な気分だ、もうひとつたのむ」と言っているので、アヘンの効果を実感しているようです。中国人は、言っていることはやはりよくわかりませんが(「鉢のなかの火を消す」とか言ってるのかな)、パイプをくわえながら、長い針を使って鉢を掃除しているように見えます。新しいのをつくりはじめるのですね。

 

 教授はふたたび吸いはじめると、「バイエルンの女王とわたしはいっしょに食事をしたんだ...」と意味不明のことを言い出しています。アヘンの効果はすごいな。中国人は自分の仕事をしながら「アヘン吸うとうそつきになる」と、教授の言っていることがでたらめであると読者に説明してくれています。ドラゴンのことについては、教授も中国人も、なにも言いません。

 

 「780ドルもかかったんだよ、だけど...」。教授は女王との食事の話をしゃべりつづけます。中国人は聞いておらず、「ぜんぶ吸った、アヘンもうない」と言ってその場から退出しようとしています。

 

 それと入れ替わるように、牙をむいたドラゴンが教授の眼前にあらわれました(9コマ目)。教授はついにドラゴンに気づき、「わあ! イエロー・ペリルだ! やめてくれえ」と叫んでいます。イエロー・ペリルの名がここで出てくるとは(Yellow Peril - Wikipedia, the free encyclopedia)。当時欧米で、中国や日本など黄色人種を脅威と考え排斥しようとする、黄禍論のことですね。

 

 それまで女王がどうのこうのと話をしていた教授が、とつぜん黄禍論を叫ぶのは、夢うつつの状態からさめたということでしょうか。アヘンを用意してもらった中国人とはそんなに仲悪くなかったようですが、やはりアジア人に対して無意識に脅威を感じていたのか。

 

 このドラゴンはなんなんでしょうね。なんの説明もされていない。教授がこれに気づくタイミングから察するに、これはアヘンの禁断症状としての幻覚ですかね。ただ、教授はこれがはじめてのアヘンで、いくらなんでもアヘン依存になるのが早すぎるという気はする。

 

 アヘンの効果を象徴的に示した図像、という解釈はどうだろう。でも教授は、象徴的な図像を間近で見て叫んでいて、それはたとえば、少女マンガの美人キャラクターの背景に浮かぶ花々に対してマンガのなかのキャラクターが「きれいね」と言うようなものです。マンガはほんとになんでもアリだなという着地。

 

 じつは当時、アヘン窟でドラゴンを飼っていたとか...。