いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドとライアンズ・アーケード

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 1897年11月7日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 中央やや右寄りで火が燃えています。この場面、燃えている火がいちばん強い光源のようですね。夜でしょうか。

 

 中央やや左寄りではイエロー・キッドがバイオリンを奏でています。寝巻きには「ネロはあんまりあったかい人じゃなかったよね、今はそんなことないと思うけど」と書いてあります。ネロというのはローマ帝国の暴君ネロのことでしょうね。「今は」というのは「あの世では」という意味かな...。ネロといえば、当時欧米では『クォ・ヴァディス』がよく読まれていたので(レアビットとクォ・ヴァディス - いたずらフィガロ)、作中人物であるネロへの関心が高まっていたと思います。

 

 イエロー・キッドが立つ台の下では、少年(テレンスかな)がたき火にむかってすわっています。背中に「このガキの最後が見られるぞ」とあり、右手にもっている長い木の枝の先に、アレックスとジョージが吊るされています。かれらは「ボクらも焼かれてるね」「うれしくない?」と、悲しげな表情で会話してます。すさまじい光景ですね。まちがいなくバイオリンを奏でるネロ・キッドの差し金だと思います。たき火の奥では、モリーと黒猫がその様子を食い入るように見ています。目が離せない。

 

 木の柵にはさまざまな看板がかけてあります。左から順に、

アスベスト・ポケットはいかが・お金が燃えませんよ」

「ヤギが第六選挙区の投票用紙をぜんぶ食べましたが、投票結果には支障ありませんでした」

「愛の火を燃え立たせたければ、マクスウィーニー結婚相談所へ・ふさわしい相手が見つかります」

「ライアンズ・アーケードで選挙たき火を行います・箱や樽など燃えるものをもってきてください」

などと書いてあります。おおむね、たき火のことと選挙のことが書いてあります。

 

 わたしも詳しくは知りませんが、当時、投票日にこどもたちがたき火をしていろいろ燃やすという風習があったようです(Philadelphia Museum of Art - Collections Object : Election Night Bonfire)。ふしぎですね。

 

 で、上のマンガはなんの選挙のことを言っているかというと、1897年11月に行われたニューヨーク市の市長選です(New York City mayoral elections - Wikipedia, the free encyclopedia)。じつはひさびさの政治ネタでした。そういえば以前、イエロー・キッドが「立候補する」とか言っていた気がするが...。

 

 ところで、「イエロー・キッド」のマンガはこれまで、「ホーガン横丁」「マクファデン通り」「世界一周」などのシリーズがありましたが、上のマンガから新シリーズ「ライアンズ・アーケード」のはじまりです。木の柵に看板が掲げられ、そのうえにこどもたちが押し寄せている絵の感じなどは、「ホーガン横丁」への回帰を思わせます(たとえば、イエロー・キッドのダブルヘッダー - いたずらフィガロ とか、イエロー・キッドと自転車レース - いたずらフィガロ とか)。

 

 それと、ここのところアレックスとジョージがよく登場しています。もともとは、同時期の『ワールド』紙に掲載された、ジョージ・ラクス作「イエロー・キッド」のなかに出てくるキャラクターです。

 

 アウトコールトがつくったイエロー・キッドを他紙で描いてもいいのなら、他紙で描かれたキャラクターをアウトコールトが描いても問題ないということなのか、アレックスとジョージは今後も出てきます(しかもよくいじめられている)。「ライアンズ・アーケード」シリーズにおける主要キャラクターですね。乞うご期待。