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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと宮殿の崩壊

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 1907年3月10日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 ニモとお姫さまはジャック・フロストの宮殿にきています。前回は北極のてっぺんにのぼって、雪が舞いだしたのであわてて下りてきたのでした。途中、ホワイトアウトになってましたが、そうした災難は今回のエピソードになんの問題もひきおこしていませんね。

 

 お姫さまは「ここはジャック・フロストの氷の庭園よ。美しいでしょう?」とニモに伝えています。あたりは銀世界で、ひんやりした空気が感じられます。コマの両側に生えている大きな植物は、空間の立体感の演出になっているとともに、コマのフレームをせばめて主人公に注目しやすくしているように思います。なんとなく、ニモたちを覗き見している感覚を覚えるのはわたしだけでしょうか。

 

 ニモは「ここはみんな凍ってるんだね...あれ、あの騒音はなんだろう?」と、お姫さまに返事をしつつ、なにかの音を気にしています。ニモの視線の先でなにがあるのか。

 

 すると2コマ目、フリップが登場です。宮殿内では禁煙といわれて以降、フリップはどこかへ立ち去っていたのですが、ニモたちのところへもどってきました。ニモの耳に聞こえた騒音は、かれが原因なのでしょうか。

 

 お姫さまは「まあ、フリップ! どうしたの、そんなに興奮して」と言い、ニモは「消防車がくる!」と言ってます。消防車。火気厳禁の宮殿でもやはり火事はおこるのか。フリップのしわざでしょうか。

 

 しかしフリップは、消防車のことはなにも言わず「オレについてこいよ、おもしろいもんを見せてやるぜ! はやくこい!」と大声をあげています。友だちを迎えにきたんですね。いいヤツじゃないか。

 

 コマの右側から登場したフリップは、そのままふたりを画面の左から右へといざないます(3コマ目)。消防の馬車が間近に迫っていて、三人がいそいで横断している様子がうかがえますね。「なにがあったのフリップ、教えてよ!」「いいから来いって!」。フリップはじらします。

 

 4コマ目、三人はコマのいちばん右側まできました。フリップは向きを変え、馬車と伴走するかたちで、画面手前のほうに走り出します。御者はフリップに「道をあけるんだ」と言い、フリップはニモたちに「こいつらのやることといったら!」と言ってます。興奮してますね。

 

 馬車には High Price Ice Company とあります。「高級製氷会社」なので、消防車じゃないです。で、馬車とフリップが走る方向にしたがって視線を左下へ動かすと、5コマ目、読者はジャック・フロストの宮殿が取り壊されている場面を目の当たりにします。

 

 立派な宮殿につるはしが打ち込まれ、氷のブロックにわけられているところです。ファサードのまえにブロックがどんどん落とされ、スタッフがひとつひとつ持ち運んで、たくさん並んだ馬車に積んでいます。

 

 これは、ジャック・フロストからしたら青天の霹靂というか、わけがわからないでしょうね。スランバーランド内でそれなりの勢力を誇っており、お姫さまからもリスペクトされていた領域のはずですが、まさか一企業に宮殿を破壊されるとは。

 

 ニモは「どうしてあの人たちは宮殿をバラバラにしてるんだよ、フリップ!」と、お姫さまも「なんであんなことをしてるの? ああ!」とパニックです。フリップは「あいつら、金がほしいんだろ。愉快な気分だぜ、へへへ」と、自分に禁煙を強制したことへの恨みを、ここで晴らしたような顔です。フリップがこの会社を呼んだのかもしれませんね。

 

 今回フリップは、太陽によってすべてを溶かすという方法をとらずに、敵対者に一杯食わせることに成功しました。ちゃんと確認してはいませんが、おそらく今後、フリップはおじさんと太陽をもう呼ばないのではないか。おじさんに頼らずひとりで状況を打開するようになったのは、フリップがニモやお姫さまと打ち解けてきた証だと思います。

 

 一方、フリップが太陽を呼んでいたときというのは、ニモがお姫さまとキスしてるときとか、カーニバルの食事が運ばれてくるときとか、つまりニモにとって幸福なときだったわけです。そこを太陽でむりやり起こされていた。しかし、フリップが太陽を呼ばないということは、ニモが眠りの国で幸福なときを迎えることがない、という意味ですので、その点、ニモの今後が心配です。まあ今はそれよりも、ジャック・フロストのことが心配ですが。