いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットと6フィート6インチの男

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 1905年8月26日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 「ちょうどおなじなんだ、6フィート6インチなんだよ」と、背のたかい男が言っています。換算したらだいたい198センチのようです。それに対し背のひくい男が「そりゃ知らなかったよ」と答えてます。この男性のとなりにいるのは奥さんでしょうかね。奥さんもけっこう背がたかいです。

 

 背のたかい男は、背のひくい男の肩にもたれかかりながら「証明したほうがいいかい? きみは利口だから。証明するよ、ぼくが6フィート6インチだってことをね」と、なおも自らの高身長をアピールしてます。背のひくい男からはふきだしが出ているのですが、中にはなにも書かれていません...でもこれ、中身はぜったい「こいつ超うぜええ」だと思います。

 

 「ボクの身長はね、すごいんだよこれが」。背のたかい男は3コマ目でも話す内容が変わりません。背のひくい男はなにかアイデアがあるのか、相手の話に乗ることにしました。「身長を測ってもらいたいのかい?」と、相手が喜びそうな発言をします。

 

 背のたかい男は「そうなんだよ、測ってくれ!」と、やはり食いつきました。背のひくい男は「ならボクらと来いよ、測ってやるから」と返して、5コマ目、なにやら小屋のまえにやってきました。大きな柱が二本、ならんで立っています。奥にはここの作業員のようなたたずまいの人がいて、小屋の看板には「くい打ち(pile driving)」とあります。

 

 この作業員と背のひくい男が、6フィート6インチの男を柱のあいだに立たせます。背のひくい男は「動かないで! まっすぐ立つんだ」と、からだの位置を調整しています。

 

 7コマ目、作業員がなんの躊躇もなく、背のたかい男のうえからおもりを落とします。6フィート6インチあった男のからだはおもりでつぶされ、背のひくい男のひざくらいまで小さくなってしまいました。「さあどうだ、満足かい?」。恨みを買うというのはほんとうに怖いことですね。なにをされるかわからない。女性たちもとくに止めたりしませんでしたね。「鼻持ちならないヤツ」とでも思ってたんでしょうか。

 

 ところが、この元6フィート6インチの男は、死んでしまうどころか、「いやはや、おもしろい冗談だ、きみね、自分のこと利口だって思ってるのかもしれないけど、ボクはこれちっとも笑えないよ、ちっともね」と、お前とんでもないことしてくれたなという意味のことばを静かに訴えています。相手は大爆笑ですね(笑)。女性たちもいっしょに笑っています。

 

 この話は、現実にこんなことがあったら恐ろしいわけですが、笑おうと思えば笑える。読者が、話を読む(見る)ときの自らのスタンスを、笑い話モードにセットしていれば笑えるのだと思います。コントとかドッキリとかバラエティとか、なんかひどい目にあって(金だらいが落ちてきたとかで)深刻な面持ちの芸人を、周囲の人や観客や視聴者が笑う、という構図ですね。この6フィート6インチの男はいま、まわりの人たちや読者を笑わせようと、芸人根性を発揮しているところなんでしょう。

 

 とはいえ、爆笑する背のひくい男の顔は、わたしにはちょっと気味が悪いです。陽気な感じがなく、なんというか、「ざまあみろ」とののしってるようでもあり、「つぶされたのにしゃべってるぅ」と恐怖を感じて狂ってしまったようでもあり。だからなのか、わたしはいまいち、スタンスを笑い話モードにできないです。