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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットと美容整形

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 1905年8月30日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 「先生(beauty docthur)、わたしの顔をすこし整形してほしいんです。美しくなれるかしら?」「ええ、奥様」。形成外科医と客のやりとりですね。客の婦人の顔は、ほおが垂れ下がり、シミができていて、前歯が露出しています。身なりは上品で、お金をもっていそうですね。

 

 医者はさっそく婦人を横たえ、施術の準備です。婦人は「鼻を整形してほしいのよ、それであごのラインをすっきりしてちょうだい、あとは口も治してほしいわ」と、いろいろ注文しています。医者は「これまでたくさんの顔を見てきたし、美しく整形もしてきたが、ありゃあ最悪だ、ひどい」と、最高難度の顔であることをつぶやいています。もちろん婦人には聞こえない声ででしょう。

 

 婦人は「きれいになるのでしたら、先生の思うようにやってください」と医者にお願いします。もう注文が多すぎて、逆にシンプルな注文になりました。医者は「ええ、まず顔を部分ごとに切り取り、手直ししてから、もういちど顔にはりつけます。我慢が必要です、時間もかかります」と、婦人に誠実に答えています。はたして手術は成功するのか。

 

 すると医者はいきなり、むこうのほうで酒をあおりはじめました。「ウィスキーは嫌いなんだが、いまは刺激がほしい。二三杯くらい飲まなくちゃ、あんな顔を相手になんかできないよ」と、ウィスキーを興奮剤にして、自らをふるい立たせています。

 

 そして手術開始です(5コマ目)。「では切り取ります。あとからひとつひとつ戻していきますね、手直ししてからですが...ああ、飲みたくなってきた」。手術の途中ですが、医者はまたウィスキーがほしくなっています。

 

 そこで次のコマ、婦人の顔に布をかぶせて、ふたたびウィスキーを飲みはじめました。「よし、目と鼻と口、それに耳も切り取ったぞ。次にいくまえに、こいつで腹を満たそう」。顔のパーツをほとんど切り取ってますね。婦人は大丈夫なのか。

 

 というかこの婦人、口を切り取られているのに「先生ったらお酒が大好きなのね」ってしゃべってる...。医者が酒を飲んでることがバレてるのか? さっき医者が「最悪の顔」って言ってたのも聞こえてたんだろうか。だいぶ肝のすわったマダムですね。

 

 医者は「いやあ酔っぱらった。耳なのか鼻なのかわかんねえな。あんなに飲まなきゃよかった」と、薄ら笑いを浮かべながら手術をつづけようとします。8コマ目で「ようしやるか、失敗しちゃうかもなあ、もうほんと酔っぱらっちゃって。とにかく顔を組み立てよう」と、婦人の顔をぐりぐりやってますが、婦人は「先生、それ上下逆じゃありませんか」と心配しています。

 

 9コマ目、できあがりです。医者は「できうかぎりのことをやりますた、とってもおきれいれすよ」と、かなりの酩酊状態ですが、婦人の顔はとんでもないことになっています。やっぱり耳と鼻の位置をまちがえていますね。耳が鼻のところにきている。それに鼻は口のところにあるし、口はほおにくっついています。

 

 おもしろいのは、顔のパーツがバラバラになっているにもかかわらず、片方の目と口が読者に見える位置にあり、おかげで婦人がおどろいているのがわかることです。顔のパーツが取り外し可能・入れ替え可能というのはいかにもマンガっぽいですね。物語の状況にふさわしい目や口の記号を顔に乗せていくという顔の作り方。

 

 ところで夢オチのコマの、婦人の視線の先にある丸いもの、あれはいったいなんなんだ。「トイレ準備のため、使用人は30分入室可」と貼紙があるのですが、んー、どういう状況なのか。入院中なのかな。すみませんわかりません。