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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドとヤギの死

イエロー・キッド

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 1897年11月14日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 イエロー・キッドはヤギがひく車に乗ってこちらに向かってきています。車は箱に車輪をつけただけの簡単な作りで、その車輪も不安定に傾いています。いつこわれてもおかしくなさそうです。

 

 寝巻きには「今朝はなんか、ビルがまずいことになりそうなんだよね」と書かれています。ビル...だれのことだろう。それと、よく見ると首にジョージとアレックスをぶら下げていますね。完全におもちゃになってる。

 

 イエロー・キッドの背後には壁があり、そこにはポスターのような紙が貼ってあります。紙の上のほうに「エヴリナイト」と書かれ、また紙の中央には、点で縁どられた、黄色くて小さな丸があり、そのなかに正面を向いた女性の顔が描かれています。女性は無表情ですね。なんだこれは。

 

 さらに、壁の横には警官が、その背中を隠しながら立っていて、画面手前をのぞき込んでいます。なんなんだこれは。イエロー・キッドを含めると、読者は三人の視線を目の当たりにします。ふしぎなコマです。

 

 2コマ目、イエロー・キッドの向きが変わりました。イエロー・キッドとヤギは、インディアン像と対峙しています。イエロー・キッドの背中には「ケガさせるなよ、ビル、あいつはタマニー・マンだ」とあります。

 

 タマニー(Tammany)とは、当時ニューヨーク市政を支配していた、民主党内の集票組織のことです(Tammany Hall - Wikipedia, the free encyclopedia)。1897年11月の市長選で当選したヴァン・ワイクもタマニーの人でした(Robert Anderson Van Wyck - Wikipedia, the free encyclopedia)。

 

 タマニーという名前は、アメリカ先住民レニ・レナペ族のリーダー、タマネンド(Tamanend - Wikipedia, the free encyclopedia)からきています。だからイエロー・キッドがインディアン像を「タマニーだ」と言ってるのですね。

 

 ところでビルとはヤギのことでした。イエロー・キッドはビルに、権力者にたてつくなよと注意しているのですが、ビルはかまわず、3コマ目でいきなりタマニーの人に激突します。衝撃でイエロー・キッドは地面に飛ばされています。腕のかたちがねじれているけど大丈夫なんでしょうか。車もこわれました。

 

 ビルの頭からいくつもの細い線が放射状に引かれていて、激突のすさまじさが語られています。なにかの破片もとびちっています。ですが、最後のコマ、インディアン像はまったくの無傷で、インディアン像の足下にはビルが倒れてしまっています。角は粉々になり、脚も不自然に折れ曲がっています。閉じられた目のうえには影が覆っています。

 

 イエロー・キッドは「かわいそうなビル、気の毒に。ボクが病気のときはよくしてくれたっけ」としんみりしたことを言っていますが、顔は爆笑ですね。いやいや笑ってる場合じゃないと思うんだが...。しかしイエロー・キッドの悪い予感は的中してしまいました。

 

 このコミック・ストリップのタイトルは「ヤギはいかに「絶命」したか!(How The Goat Got 'Kilt Entirely!')」です。どうやら、ヤギは死んでしまったようです。マジか。

 

 これまでいろいろと活躍してきたヤギが、とくに死ななければならない理由などないのに、なぜここでこんなふうに死んでしまうのか、かなり理解に苦しみます。え、ほんとに死んだの? と信じられず、これ以後の「イエロー・キッド」のエピソードをいくつか見てみたのですが、たしかに、ヤギはこの「絶命」を最後にもう登場しません。マジか。

 

 マンガのキャラクターといえば、さんざん無茶して大ケガしても、次のエピソードではなにごともなく元気に登場するというのが定番ですが、こんなふうに死が描かれることもあるんですね。1コマ目の女性と警官は、ヤギの最期を見届けたかったのかもしれません。