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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと板のうえのフリップ

眠りの国のリトル・ニモ

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 1907年3月24日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 ニモたちは前回、海賊船につかまってしまったのでした。みな鎖につながれてすわっています。「海賊はボクたちをどうするつもりなんだろう、心配だなあ」「どうするつもりなのかしらね」「どうってことないさ、オレは心配してない」と、左から順に話しています。フリップはあいかわらず冷静というか、度胸がありますね。なにか考えでもあるのでしょうか。

 

 まもなく、海賊が三人の鎖を引き、三人は鉄球を抱えながらあとをついていきます。「あの人、ボクたちをどうするって言ったの?」「船長のところにつれていくんですって」「オレを傷つけるんじゃないぞ、わかったか!」。ニモがいちばん不安や緊張を感じているのかもしれないですね。海賊の話に耳を傾けられなかった、あるいは、船長に会うという恐怖から逃げ出したかったのではないかな。でも、ニモの反応はこどもとしては当然です。

 

 三人は船長のまえに並んで立たせられます。船長はからだがとても大きくて威厳がありますね。遠近法的な空間の奥のほうにいてこのサイズですから、ニモたちの背丈は船長のひざに届くかどうかというところでしょう。ただ、船長の威圧感が実際以上に船長のからだを大きく見せているのかもしれません。

 

 船長は一枚の紙を手にしながらこう言っています。「おまえたちにな、これにサインしてもらいのさ。それでオレさまがこれを眠りの国のモルフェウス王に送れば、やつはすぐにオレさまに1億ドルを送ってくれる、というわけだ。したがわなければ、おまえたちはもう...」。おまえたちはもう故郷に帰れないよ、ということですねきっと。

 

 ニモとお姫さまは無言です。フリップは「なんだおまえ、脅かそうってのか? へっ、だれがおまえなんかを怖がるんだよ、オレたちゃサインしねえぜ」と真っ向から対決姿勢です。強気に出ましたね。ニモの顔が見たい。

 

 海賊たちは黙ってはいません。4コマ目の左端で「あいつを押さえつけろ!」と声があがります。ニモは「やめてください! やめて!」と慌て、お姫さまは「なんであなたってそんな無茶苦茶なの?」と半ばあきれています。しかしフリップは「いいからオレにまかせろ」と、やはり考えがあるようです。画面右端では「板のうえを歩かせろ!」と怒鳴り声があります。

 

 次のコマ、お姫さまとニモが「フリップに板のうえを歩かせようとしてるわ」「板のうえを歩くだって? おしまいじゃないか!」と固唾をのんでいるなか、フリップは海賊たちに取り囲まれています。海賊たちは「板に乗せろ!」「押し出してやれ!」「生意気なヤツだ!」と声を荒げながら、船の横に突きだす板へと、フリップを押し出そうとしているのでしょう。よく映画とかにある、処刑シーンですね。でもフリップは「板なんか怖くねえよ」と、動じる様子がまったくない。

 

 なぜフリップは平気なのか。板の先端に立つフリップのことばは、次のようなものです。

 

「オレがだれだか知りたいか、なら教えてやるぜ。オレはフリップだ。夜明けの番人のおいっ子さ。おじさんは太陽を呼んで、おまえたちを溶かしてしまうかもな。それでもオレに飛び下りさせるのか?」

 

 ...おじさんパワーを使ってきましたね。海賊たちはそれを聞いて真っ青です。「ダメだダメだ! 船長、あいつを止めてくれ! オレたち消えちまう!」「あいつは危険なガキだ!」「太陽を呼んでオレたちを溶かすつもりだ!」「あいつをこっちに戻せ! はやく!」「あいつは大事に扱わなくちゃダメだ!」「やめさせるんだ!」、といった具合に、みな船長に対し、処刑をストップするよう必死に訴えています。船長も「あいつを連れ戻せ、それからあいつをオレさまの宝石で飾り立てるんだ」と、ご機嫌取りに出ました。

 

 フリップのおじさんパワーは効果絶大ですね。絶大すぎて勝負にならない。実際にはおじさんを呼ばなくとも、おじさんの力をちらつかせるだけで状況を一変させられるんだもの。フリップはつねに最強の切り札を手にしているわけで、これだとニモやフリップたちの冒険に真のピンチがおとずれることはないでしょうから、個人的にはすこし物足りないかな。

 

 とはいえニモたちは安心した様子です。「フリップはこれをねらってたんだね」「やるじゃない!」と、ふたりともフリップを見直したようです。

 

 それにしても、海が静かですね。フリップの頭を横切る水平線がもうみごとに直線で、波ひとつありません。暗い空と暗い海があたりを支配していて、喧噪があるのは世界でここだけ、という感じがします。こんなさみしい場所でニモたちは不安と戦っていたのか、それならば、フリップが切り札を出して問題を解決してくれたのはよかったな、とも思います。