読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと宝と砲弾

f:id:miurak38:20160715112753j:plain

 1907年3月31日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 ニモたちは海賊につれられて、船のなかの階段を下りています。先導する海賊は「船長がおまえたちを宝の部屋につれていけとさ。ぜんぶおまえたちに与える気なんだ」と顔を見せずに言っていて、お姫さまがそれを聞いて「真相を知ったのなら、わたしたちのことを恐れているのかしらね」とつぶやいています。

 

 海賊たちは、フリップが太陽を呼んでこの世界を消してしまうことを恐れているのですね。でも消されても、そのうちまた復活すると思うんだけど。そんなに恐れる必要あるのか。

 

 ニモたちを案内する海賊は、部屋の前に立ち「これは大変な名誉なんだぞ、船長以外はだれもこの部屋に入ったことがないんだ」と言いますが、フリップは「船長がオレたちをここに入れることが名誉なのさ」と答えています。まったく口が減らないですね。

 

 部屋の入口には緞帳が垂れ下がっているのかな。それをくぐって中に入ると、部屋は宝の山です。三人は「海賊たちはこんなに宝石をもってたんだ」「ぜんぶ盗んだものだけれどね、わあ、これきれいじゃない?」「着飾ってみようぜ、王様みたいにさ」とはしゃいでいます。

 

 フリップのことばをきっかけに、三人は思い思いの格好をします。ニモは剣士の出で立ちですね。「ボクたち似合うんじゃない? これ持って帰ろうか?」とご機嫌です。お姫さまは、お姫さまだけあっていつもとあんまり変わらないような。「でもわたしたち、もう帰れないかもしれないわ、海賊につかまってるんだもの、ねえフリップ」。

 

 フリップの格好はいいですね。お姫さまとちがって「服に着られてる」感があります。フリップは「そう長くはつかまっちゃいないさ、あんたの親父がすぐ来るぜ」と、もうすぐ助けが来ることを予想しています。

 

 すると次のコマ、三人の視線が部屋の壁のほうへと注がれました。砲弾と、壁にあいた穴が描かれています。おそらくお姫さまのお父さん・モルフェウス王が、自分の軍艦から大砲を放ったのでしょう。海賊が「はやく階段を上がれ! 戦艦が大砲を撃ってきたんだ、モルフェウス王の船が来た」と三人を急かします。

 

 砲弾はどんどん撃ち込まれます。海賊は砲弾の直撃をギリギリかわしつつ(いや、当たってるのかな)「砲撃をやめるよう言ってくれ! オレたちが粉々になっちまうぞ!」とニモたちに訴えていますね。

 

 ニモはお姫さまのそばに寄り添い、お姫さまはフリップのほうを見て「これを止めなくちゃ! でもこの服装どうしよう?」と問いかけます。完全にフリップがイニシアチブをとっています。フリップは「もっていくのさ! もてるだけもっていくに決まってんだろ」と、王冠を頭から落としつつ、また砲弾をよけつつ、走ってニモたちのところへやってくるところです。右端の海賊は「なんでももってっていいから砲撃をやめさせてくれ!」と腰を抜かしています。

 

 ところでこの砲弾ですが、まるで、壁に穴をあけた瞬間を写真にとったかのような描かれ方です。飛んでくる砲弾は、人間の目にはもうちょっと歪んで見えそうなものですが、ここにあるのは完全な円です。また放射状にとびちる木片も、輪郭戦がはっきりしているし、木目までちゃんと見えています。

 

 写真というより、概念的というべきかもしれません。写真でも砲弾の輪郭はぼやけていそうだし、木片のとびちり方は様式的な感じがします。花火のような、きれいな円を描いてとびちっている。

 

 いずれにせよ、この背景描写はけっしてニモたちの視点から描かれたものではありません。ここはニモの夢の世界ですが、世界がニモの視点から捉えられておらず、かわりに、物語のすべてを知る語り手の視点が採用されています。ただ、ここがニモの夢の世界だということは、ニモが自らの視点を、制限されたものから全知のものへと自在に変化させられる...ということは言えるかも。うーんわからなくなってきた。