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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドと二色刷りのクリスマス

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 1897年12月5日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 二色刷りですね、フルカラーではありません。人気にかげりが見えてきたのだろうか。

 

 「ライアンズ・アーケードのクリスマス」ということで、どこかの一室を会場にしてパーティーをしているようです。画面右側からイエロー・キッドが登場です。帽子とあごひげをつけて、寝巻きに「サンタクロースのひげをつけてるからボクだってバレないでしょ」と書いてます。バレるわ。

 

 イエロー・キッドの背後には光があまり届いていないのですが、かれが大型のバケツみたいなものを背負っているのがかすかに見えます。斧が入ってるのがすぐわかるのですが、これにはタグがついていて、「ヴァン・ワイク市長へ」とあります。プレゼントなんですね。ヴァン・ワイク、タマニー、インディアン、というつながりかな(イエロー・キッドとヤギの死 - いたずらフィガロ)。

 

 他には、木の杭のようなものがあって、「北極をナンセン先生に」というタグつきです。北極到達を目指すもかなわなかった学者、フリチョフ・ナンセン(Fridtjof Nansen - Wikipedia, the free encyclopedia)への贈り物です。

 

 それから、北極と斧のしたに小箱があって、「キューバの葉巻をブランコ将軍に・いっぱい詰め込んであります」と書かれています。ブランコ将軍とはラモン・ブランコ・イ・エレーナス(Ramón Blanco, 1st Marquis of Peña Plata - Wikipedia, the free encyclopedia)、当時のキューバ総督です。

 

 ただ、キューバと仲良くやろうという気があるのかは微妙です。バケツの縁には「独立をキューバに」と書かれたタグがくっついていますので。米西戦争は翌年4月に開戦です。

 

 サンタの変装で登場したイエロー・キッドを、画面の反対側に立つこどもたちが見ておどろいています。黒猫もいる。床には、ノアの方舟から駆けだしてくる動物たちや、ラッパ、ボール、びっくり箱などがちらかっています。びっくり箱からとびだす人形と、台車つきの木馬、それにクリスマスツリーの台にすわる人形は、こどもたちとおなじように、イエロー・キッドを見てびっくりしているようです。

 

 それと、言い忘れていましたが、イエロー・キッドが肩にかけている長いロープにはアレックスとジョージが結わえつけられ、床を引きずられています。「ボクたち、クリスマスになにをもらえるのかな」「安物だと思うよ」と会話してます。ジョージの首にもタグがあり、「ブービー賞」と書かれていますね。だれがゲットするのでしょうか。だれもゲットせずにイエロー・キッドにつながれたままかもしれません。

 

 壁の貼紙には、「新しい樽いっぱいの常識(horse scents)をアンソニー・コムストックに、いいバックネットをスクラッピー・ジョイスに、それと何人かいい選手をニューヨークのチームに」などといった、プレゼントと宛先との組合せがいくつか書いてあります。

 

 アンソニー・コムストック(Anthony Comstock - Wikipedia, the free encyclopedia)とは社会改革家・政治家で、性的な内容が書かれた文書(卑猥なものにかぎらず、避妊とか中絶とか解剖図とかも含む)のやりとりを禁止する法律、通称「コムストック法」の制定に熱心だった人です。

 

 YMCAの協力もあり、法律は1873年に成立します。すると郵政省による手紙の検閲がはじまり、コムストックも郵政監察官として取り締まりにあたりました。しかもコムストックは同年「ニューヨーク悪徳抑圧協会(New York Society for the Suppression of Vice)」なる組織を立ち上げています。すげえ名前。

 

 キリスト教の信仰に基づいて人々を悪徳から救おう、という志の高さを感じますが、そんなコムストックをクリスマスのマンガのなかで笑い物にするとは、アウトコールトもさすがですね。風刺画家としてのセンスが発揮されているように思います。