読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドと二日酔いの元旦

イエロー・キッド

f:id:miurak38:20160726154115j:plain

 1897年12月26日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 年末の新聞掲載ですが、タイトルは「元旦のライアンズ・アーケード」です。副題があり、それによればイエロー・キッドは「ウラー! ウラー! けどボクの頭は風船のようだね!」と、よくわからないことを言ってます。「ウラー!(Wurra!)」は「フレー!(Hurray!)」みたいなものかな。正月を陽気に祝っているんでしょう。

 

 そのイエロー・キッドは、画面前景に立っています。頭に大きな氷を乗せ、タオルで顔に巻きつけています。「ねえ、これ、見た目ほど笑えないよ」と、眉尻をさげて困った様子ですね。熱があるのかな。左手にはひもをもっていて、イエロー・キッドのうしろのほうでビンや箱が結びつけられています。

 

 茶色の箱には「ザワークラウトの花(flor de sauerkraut)」「タバコ(cigars)」と書いてあって、結局なにが入っているのか...。タバコの種類? この箱のうしろには「金塊(gold brick)」と書かれた金色のかたまりと、「鉛」が引きずられています。gold brick には「偽物の金塊」という意味もあるそうで、たしかに、これは金色に塗ったレンガでしょうねたぶん。

 

 さらに、金塊にはタグがついていて、「マギンティ(McGinty)へ・親愛なるマック、ボクたちには必要のないものをいくつかもってきました」とあります。マギンティってだれだろう。こんなガラクタを喜ぶ人なのか、あるいはイエロー・キッドの押し売りか。

 

 今日のマンガはいろいろな場所に文字が書いてあって、その多くが「タバコ」のようなシンプルなものです。なぜ書かれたのか、意図がよくわからないケースもあります。たとえば、画面右下の「赤ペンキ」。バケツに赤いペンキが入っていることは一目瞭然のような気もしますが、わざわざ書いてあります。

 

 赤ペンキのすこし向こう側には「頭痛薬」と書かれたビンが横たわっています。二日酔いのだれかが使ったのかもしれません。イエロー・キッドや他のこどもたちはおそらく、前日の夜にさんざんさわいだのでしょう。飲酒もありうる。金塊の近くにも「薬」の容器がふたを開けています。また、ふたつの薬のあいだでは、こどもが水道水で頭を冷やしています。

 

 黒猫も疲れた表情ですね。ふきだしのことば「ああ、カッツェンジャマー(katsenjammer)だ」は決定的です。「二日酔い」という意味ですから(参照:イエロー・キッドとドイツビールで乾杯 - いたずらフィガロ)。

 

 ルドルフ・ダークスのマンガ「カッツェンジャマー・キッズ」は、すでにこの時期、『ニューヨーク・ジャーナル』に掲載されています。だからこの黒猫のことばは、自分の体調を説明することばであるとともに、おなじ日曜付録のべつのマンガを指示しているというおもしろさがあります。

 

 猫のすこし奥には犬がいます。こちらも疲れきっていますね。「いままででいちばんしつこい頭痛だな(Dis is de dog-on-est headache I ever had)」だそうです。さきほどの猫の「カッツェンジャマー」ということばが「カッツェ(Katze:猫)」を含んでいたように、犬は自らの状況を、dog の語を用いて説明しています。

 

 画面左下には、地面に看板が差してあります。「大きくなったニューヨークの幕開けを、いいコンディションでむかえられました」だそうです。ニューヨーク市は19世紀末、ブルックリンやクイーンズなど周辺地域と合併し、1898年1月1日から大ニューヨークになりました(City of Greater New York - Wikipedia, the free encyclopedia)。まあ、行政区分がかわってもイエロー・キッドたちの生活はなにもかわりませんね。「いいコンディション」とありますが、貧民街のみんなが体力や気力を使い果たしてこれ以上暴れる気がないことは、平穏無事に正月をすごしたい人々にとっては「いいコンディション」なのかも。

 

 看板の近くではアレックスとジョージが桶に頭をつっこみながら、仰向けに寝ています。足だけこちら側に見えています。「ボクたち培養器(incubator)のなかにいたほうがいいね」と書かれたタグが、その足に結わえてありますね。培養器に入って細菌のように増殖するのか、あるいは保育器に入って大きくなるのか、それとも孵化装置に入ってモンスターになるのか、インキュベーターの訳に苦しみますが、いずれにせよイエロー・キッドたちに一泡ふかせたいのでしょう。

 

 桶に立つオウムは「こりゃとっても陽気そうなやつらだな」と皮肉を言ってますね。ここに描かれているキャラクターのなかでは、唯一、疲弊していない様子です。

 

 背景にも文字がたくさん書かれています。まずは中央の路地を奥に入った先に「ピルズベリー薬局」があって、こどもたちが大挙おしよせています。それと、その路地に入る前、右側の建物のかどにある貼紙にあるのは、「いやあ! なんてたのしいひと時だったことか、年忘れしたね。昨夜のライアンズ・アーケードはアツかったな」と、前夜の酒宴についてのことばです。

 

 画面左上には、「お静かに」と書かれた札がふたつ窓から下げてあり、また画面右端の、「ライアンズ・アルカディア(理想郷)」と書かれた入口のとなりには、「ひるむな、悪態をつけ、だって新年だろ/元気だせよ、ハッピーニューイヤー」と書かれています。むちゃくちゃですね。訳がまちがってるのかな...。Dont lose yer nerve an swear off just because its new years / Brace up happy new year.

 

 まあそんなわけで、いよいよ1898年がはじまります。「イエロー・キッド」最後の年です。