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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドと画材屋

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 1898年1月9日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 右のコマのイエロー・キッドが、赤や青の絵具にまみれながら笑顔で手前に出てくる姿、スプラッターな感じですごく気になりますが、まずは左のコマから見ていきましょう。

 

 イエロー・キッドが少年を追いかけているところです。顔はこちらには見えないので、どんな顔で追いかけているのか想像がふくらみますね。とんでもなく恐ろしい顔かもしれません。

 

 少年は、扉の開いている建物のなかに入ろうとしています。すぐ横に「油絵具」とか「絵筆」とか書かれた看板があるので、画材屋でしょう。ただ、窓にある貼紙を見てみると、「ブルー用薬剤(cure for the blues)」「いろいろな緑あります(a nice line of green goods)」など、それぞれ「抗うつ剤」「青果そろってます」と読めることばになっていて、もしかしたら画材以外のものも売っているかも。

 

 また、green goods は「青果」以外にも「偽札」という意味があるそうです。この店では偽造紙幣や偽造硬貨も扱っているかもしれず、となると、扉にある「金色塗料」の貼紙ががぜん怪しく感じられてきます。

 

 樽が積み重ねられたショーウィンドーにも貼紙があります。「街を彩るなら特製の赤色塗料をどうぞ。水で落とせます(try our special red for decorating towns / washes off)」。以前も「イエロー・キッド」にこの表現があったような気がしますが(どのエピソードだったかはちょっと忘れた)、paint the town red ということばには「飲み歩く」という意味があります。なんで「街を赤く塗る」が「飲み歩く」になるのかふしぎですが、ともあれこの店は薬や野菜だけでなくお酒も売っているようです。

 

 で、そんな画材屋というか雑貨屋に、少年がうしろを振り返りながら駆け込んでいき、イエロー・キッドがあとを追っています。

 

 では右のコマへ。イエロー・キッドの黄色い寝巻きには、赤と青のしぶきがかかっていて、おそらくは店内で乱闘が繰り広げられていたのではないかと考えられます。店内は絵具がまき散らされているんでしょう。少年はどうなったのか。

 

 寝巻きのことばはこうです、「ねえ、もうひとりのほうを見てきたほうがいいよ...いやボクはなにもしてないよ」。イエロー・キッドがよく言うやつですね。ボクじゃないよ絵具がやったんだよ、的な。あるいはイエロー・キッドがなにか罠をしかけて、少年の自滅をひきおこした、とかいうこともあるかもしれない。

 

 2コマ目では、1コマ目には見えなかった貼紙を読むことができます。まず画面右上に「ワニス」と書かれていますね。「見せかけ、ごまかし」という意味でもありますが、イエロー・キッドのことを指しているのかな。

 

 そのしたに貼ってあるのは「イギリス、フランス、ドイツ、ギリシャ製絵具」ということばですが、最後の「ギリシャ製絵具(Greece paint)」は「グリース・ペイント(grease paint)」の駄洒落です(アウトコールトもそんなのいちいち説明されたくないと思うかもしれませんが)。グリースペイント、いわゆる「ドーラン」ですね、油性のおしろい。イエロー・キッドも意外と使ってたりするかもしれませんね。芸人みたいなもんだから。

 

 タイトルは「イエロー・キッドのリリリリベンジ(r-r-r-revenge)・画家の息子はどのように色あざやかになった(got fresh)のか」です。でもじっさいのところ、少年がイエロー・キッドにペンキを塗りたくられている様子は描かれていません。イエロー・キッドの寝巻きにつけられた赤や青の手形から、少年の抵抗を推し量るよりほかない。

 

 get fresh には「生意気になる、なれなれしくする」といった意味もあるそうですが、この状況で少年がイエロー・キッドに反旗を翻すことができたかどうかは疑わしいです。「イエロー・キッドをペンキのついた手でべたべたさわる」という意味なら大丈夫かもしれない。

 

 それにしても、get flesh(生肉になる)じゃなくてよかったですね。それだとほんもののスプラッターですから。