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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットとビルの屋上の親子

レアビット狂の夢

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 1905年9月16日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 このマンガは...ほんとに悪夢ですね。下のほうのコマで、幼児がビルの屋上から飛ばされていってます。こどもが自分の目の前でこんなことになったらと思うとぞっとしますよ。

 

 そもそも1コマ目で、こどもをこんな高い場所の縁にひとりで立たせているのがこわい。こどもはおもちゃを引きずりながら、ビルの端ギリギリに立ち、遠くを見ています。画面の手前では母親が「あそこにいるわ、あの子、どうやってこのフラットアイアン・ビルまでやってきたのかしら」と言っています。母親の知らぬ間に、こどもがひとりでフラットアイアン・ビル(Flatiron Building - Wikipedia, the free encyclopedia)の屋上まできていたようです。

 

 こどもは母親に気づき、「おーい、ママぁ!」と声をあげます。ママは「なーに」と返事をしますが、同時に「あの子をつかまえようとしてるのを悟られちゃまずいわ、あの子飛び下りちゃうもの」とつぶやいています。顔はこちらを向いていて、困っている様子ですね。内語用ふきだし(thought balloon)がない時期の、内語表現の工夫です。劇場におけるモノローグに近い。

 

 こどもは「つかまらないよぉ〜!」とニコニコしながらビルの縁を歩き、ママは「こっちへいらっしゃい、ママといっしょに遊びましょ」と、こどもに近寄らずになんとかこどもをつかまえようとします。内心ヒヤヒヤでしょう。

 

 こどもはそんな親の気持ちにはまったく気づかず、「あ、お人形さん落ちちゃった、かわいしょ!」とビルの下をのぞいていて、ママは「ああ、いい子だからこっちへきて! 風が強いわ!」と叫んでいます。ドキドキが伝わってきます。

 

 こどもは「お人形さん落ちちゃった」と悲しい顔になりました。ママはお人形さんのことはどうでもよく、「どうすればいいのかしら、わたしがあの子に近づけば、あの子ぜったい落ちるわ」と、やはりこちらを向きながら苦しんでいます。ママは、べつのお人形さんをもっていればよかったかもしれませんね。

 

 しかし、チャンス到来です。こどもが「お人形さんほしい」とママにおねがいしています。ママは「そうよ、そうそう! ママのところにきてちょうだい、いっしょにお人形さんのところに行きましょう」と、落ちた人形をエサにしてこどもをおびき寄せようとします。

 

 ところが7コマ目、強風にあおられてか、こどもがふわりと浮かび、ビルの向こうのほうへとからだをもっていかれてしまいました。ママは「いやあ! こどもが!」と絶叫です。ついに恐れていたことが現実に。

 

 ママはもう「どうすれば! ああ!」と叫ぶばかりで、意識を失いかけています。こどもはビルの縁のところで風にもちあげられ、そのあとは風に流される風船のように、ビルを遠ざかっていきます。

 

 最後のコマ、夫が「すごい声だったね、死ぬんじゃないかと思ったよ、どうしたの?」と声をかけるなか、妻はあかちゃんが眠るベッドに近づき「なんでもないわ」と返しています。表情は見えませんが、疲れきっていることは明白です。

 

 ところで、このこども、イエロー・キッドに似てますね。髪がないこととか、簡単なつくりの服とか。母親は冒頭「あそこにいるわ、あの子(there she is)」と、こどもを she と呼んでいるので、じつは女の子なのですが。