いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモとジャングルの動物たち

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 1907年5月19日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 ニモたちはジャングルのなかを歩いています。先頭を歩くのはこの島の族長で、「わたしの宮殿まではそう遠くない、ジャングルをちょっと歩けば着くぞ」と、ニモたちを率いています。最後尾のフリップは、1コマ目左端に姿を見せるこの島のいたずらっ子にむかって「ついてきたいんなら、これ以上は近づくなよ、わかったか?」と、自分にちょっかいを出すなと告げています。前回、フリップはあやうく島のこどもたちに食べられてしまうところでしたので、これ以上の面倒はごめんだということですね。

 

 2コマ目、耳の大きな、なんとなく草食動物っぽい野生生物が、画面手前に登場です。ニモたちも気づいているようですね。フリップはうしろをついてくるこどもを見ながら「おまえが探してるものが見つかりそうだぞ」と言っています。オレにかまわずそこらの動物をつかまえて遊んでろ、とでも言いたいのかな。

 

 3コマ目にはトラが出てきました。ニモたちを取り囲んでいて、2コマ目よりも緊迫感があります。「船員がオレたちのあとをついてくるって言ってたよな? あいつらこっちに向かってきてるのか?」「ああ、向かってきている。だがなにもこわがることはない! 見えてるものは気にするな!」。族長はトラたちに気づいていますが、心配は無用だとフリップに返答しています。

 

 ここまで一行は、コマの左から右へと歩みを進めていましたが、4コマ目からは逆に、右から左へと移動します。おなじ方向ばかりがつづくことの単調さが回避されていますし、紙面の上下の対称性という意匠があらわれていますね。

 

 キリンたちのトンネルをくぐりながら、族長は「さあこっちだ、ついてきてくれ!」とニモたちに声をかけます。ニモとお姫さまは一言もしゃべってません。見慣れないジャングルに目を奪われながらの歩行です。フリップは「ついてくよー」と、おとなしくニモたちといっしょに歩きます。

 

 と、ここまでは無難でしたが、フリップがこのまま終わるはずもなく、5コマ目でいたずら精神を発揮します。族長が「サルたちに手を出すなよ、ココナッツを投げてくるからな!」と言ってるまさにそのときに、サルに「こっち来いよ」と手を出しています。これまで無言のお姫さまが「ダメよ、フリップ! やめて! ダメだってば!」と叫びますが、フリップは聞きやしない。

 

 案の定、フリップは6コマ目でサルにココナッツを投げつけられてます。族長が「やめろ! やめろ!」と叫んでますが、木々のあいだにはたくさんのサルたちがいて、これでは多勢に無勢ですね。フリップは、前回はこどもたちにいたずらされたわけですが、今回はサルたちにやられてしまいました。

 

 ココナッツがフリップに命中しているこの場面、フリップはコマの中央付近に立ち、大勢のサルがそれを手前と奥から取り囲んで見つめ、またフリップにココナッツを投げるサルの腕がフリップのほうをまっすぐ向き、さらに族長も左端からフリップをまっすぐ見ていて、読者がフリップへ視線を集中するよううながす工夫がなされています。

 

 一方、画面右下のあたりに、となりのサルに大声でなにかをしゃべっているサルがいて、かれらはフリップを見ていません。タバコをくわえた人間が仲間に暴力をふるったんだ、と言ってるのかなと思いますが、発言内容はともかく、この身ぶりのおかげで、ここのサルたちは人間社会のようなコミュニティをもっていて、それぞれが自発的に活動しているんだなあと感じます。

 

 ニモは結局、セリフなしでした。ただベッドのうえでは、眠っているあいだもからだが動いていたようで、最後のコマでニモの家族に「今夜のニモはぜんぜん眠れてないねえ、ずっと落ち着きがない」と言われています。週に一回は寝不足かもしれない。