いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモとゾウのレース

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 1907年6月9日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 前回、島の人々はニモたちを歓迎するあかしとして、おおぜいで舞いを披露してくれました。それは手に槍をもちながら勇ましく踊るものだったので、フリップとニモは、自分たちも槍を手にして踊りたくなってしまうほどでした。

 

 今回、歓迎会はすでに終わっています。ただ、ニモたちの興奮は覚めやらず、フリップは族長に対し「なにか刺激がほしいぜ! 戦の踊り以外になんかないのか?」とたずねています。

 

 歓迎会のときはニモたちは白い腰みのでしたが、いまは色つきの腰みのに着替えています。ニモが青、お姫さまが黄、フリップが赤ですね。フリップの頭はどうなっているのか。髪を上のほうだけ束ねているのかな。たんこぶみたいに見えますが。

 

 族長は「あかちゃんゾウに乗ってみるかい?」と答え、ニモたちをゾウのいるところへつれていきます。「あかちゃんゾウが三匹いるんだ、人なつっこいから乗れるだろう!」と話しながら歩いていき、3コマ目でご対面です。「この子たちだ! 刺激がほしいんなら乗ってみるがいい」。フリップは「ああ! いいね! こいつらうまく乗っけてくれるかね、もう乗っていいのか?」と、まずまず満足してるようです。

 

 ニモたちは4コマ目ではやくもゾウにまたがり、フリップが「それじゃあ、レースしようぜ。おまえたちと競争だ」と提案しています。族長が「ゾウを走らせたければ、ギーク! と言うんだ」と言ってゾウの走らせかたを教えると、ニモたちはさっそくゾウたちをうまく乗りこなしています。「その調子だ、走っておいで」「ギーク! ギーク! おいのろまめ、ギーク! いそげ!」「レースはしないわよ、フリップ!」。

 

 フリップはレースが好きなのか、お姫さまがレースはしないと言っていても、「ギーク! このグズ! さっさと走れ!」とゾウをせき立てます。ニモが「ちょっと止まろうよ、フリップ」と声をかけますが、次の7コマ目になっても、フリップは止まる気配がありません。「止まらねえよ、これはレースなんだぞ! 走れ走れ!」「レースはいやよ、フリップ!」「ボクはゾウを止めるからね!」。

 

 4〜6コマ目で、ゾウたちは左から右へと走っていましたが、7コマ目でやや正面向きになり、8コマ目から今度は左へと走り出します。ゾウが走り出すときの脚の動きかたを4〜6コマ目で描き、そこでゾウの右半身を見せたので、今度は左半身を見せよう、というマッケイのサービス精神でしょうか。コマごとに向きがころころ変わるという描かれかたではありません。

 

 8コマ目。フリップが「走れよ! 燃やしちまうぞ」と言っていて、となりでお姫さまが「フリップったら、葉巻をゾウに押しつけてるわ!」と大声をあげています。フリップは読者の見えないところで、そんなひどいことをしていたんですね。ニモが「ゾウがいうこと聞かずに走ってるよ!」と叫んでますので、ゾウたちはパニックになっているのかもしれません。

 

 フリップがレースで動物を走らせるといえば、思い出すのはガチョウです(リトル・ニモと門のない壁 - いたずらフィガロ)。あのガチョウは好きだった。宮殿の塀をかるがると飛び越えたので、フリップは御者の才能があるのかなと思ったのですが、いまにして思えば、今回のように、タバコで脅していたのかもしれない...。

 

 ゾウたちは三頭なかよく浜辺にやってきました。やけどを癒すためかな。フリップは「おっ、今度は水に入りそうだな」と冷静ですが、ニモは「海につき進んでいくよ! わあ!」とあわてています。

 

 で、次のコマでみんな水に入ります。「おお! 泳いでるみたいに速いな」とフリップが感心するのもつかの間、11コマ目、三人はゾウの鼻から水を浴びせかけられ、後方にふっとんでしまいました。お姫さまとニモはなにも悪いことしてませんが、まあ、ゾウからしてみれば「なんてひどいヤツをつれてきたんだおまえら」ということで、連帯責任なんでしょう。

 

 7コマ目で走る向きがかわり、それ以降のコマではニモが画面のいちばん手前を走っていました。なので11コマ目でふっとばされるのもいちばん手前で、同時にいちばん右にふっとばされているので、ニモは夢オチのコマに最も接近しています。「水をかけないでよ、ママ!」「なら早く起きなさい! さっさとしないとぜんぶかけてしまうわよ!」と、どうやらニモはじっさいに水をかけられて起こされたようです。