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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと山を走る四駆

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 1907年6月23日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 冒頭、族長が「こどもたちを帰らせるのはまってくれ、わたしの車に乗せようと思ってたんだ! よく気をつけるから、おねがいだ」と、軍艦の船員に頼み込んでいます。「よく気をつけるから」というのは、前回ニモたちが人食いにつかまってしまったことを言ってるんでしょう。

 

 フリップは「そうこなくっちゃ!」と賛成し、船長(なのかよくわからないけどともかく偉そうな人)も「あなたの車でこどもたちを安全に船まで連れてきてくれるのなら、それでもけっこうだ。これ以上まちがいがあっては困るぞ」と、OKを出してくれました。

 

 そんなわけで2コマ目、族長じまんの車が登場です。さっそくフリップに「これが車なもんか、スピード出んのかよ!」とディスられてまして、たしかに車輪部分がヤギになってます。クラクションはカエルですね。

 

 ハンドルの中央からのびるシャフトが、カエルのすぐうしろを貫通して、車の前方に突き出ています。よく見ると、その突端の円盤の縁から棒がのびていて、ヤギを取りかこむ赤い板と連結していますね。いちおう、ステアリング装置はあるようです。

 

 族長は「ははは、きみたちが経験したことのないスピードで、船までつれてってやろう」と自信たっぷりです。ニモとお姫さまはこれまで無言で、なにを考えているのかわかりませんが、とりあえずフリップといっしょに車に乗り込みました。

 

 車は動きだします。ヤギたちが軽快に走り、カエルが「ガァガァ(honk honk)」と声をあげています。英語でクラクションの音をあらわす擬音語 honk は、辞書で調べたら、ガチョウの鳴き声の音にも用いられるようです。ここではカエルが鳴いてる声なので、クラクションの音にもガチョウの鳴き声にも、またカエルの鳴き声にも聞こえるような日本語としては「ガァガァ」あたりが妥当でしょうか。

 

 一方、たとえば「ゲコゲコ」とすれば、カエルの声をむりやりクラクション代わりにしているというおもしろさが出るし、「ブッブー」とすれば、族長はどのようにしてカエルからそんな音がでるようにしたのか、という妄想の種になりそうです。

 

 車は、登場したときには画面の右を向いていましたが、3コマ目の右カーブをまがりながら車体を左にむけていきます。

 

 族長は運転しながら「この子たちと別れるのはとても残念だが、どうすることもできない」と寂しそうです。後部座席では、お姫さまが「これすてきじゃない? ねえニモ」とご満悦ですが、フリップは「すてきなもんか、オレには遅すぎだ! もっと速いのがいいね」とだるそうですね。

 

 うしろでそんなことを言われてしまった族長は「まってろ、もうすぐスピードが上がってくるから」と、スピードを徐々に上げるつもりですね。しかしいま走っている場所は崖のうえで、ちょっとこわい。「速くなってきたよ!」と言うニモの顔はすこし不安そうです。フリップは「こんなの速くねえよ、もっと出してくれないと」と言っていて、読者は、状況がこれからエスカレートしそうだなと予期できます。

 

 すると5コマ目、車は崖からジャンプしてますね。族長は「いま1マイルを20秒で走ってるぞ」と言っていて(だから時速288km くらい)、ニモも「ボクにはじゅうぶん速いよ!」と叫んでるし、族長はフリップのリクエスト以上のことをやってると思います。でも、フリップには「スピードを上げられるだけ上げるんだ!」と言われてます。

 

 それまで画面の左手前のほうをむいて走ってきた車は、6コマ目で完全に左向きになります。足場のほとんどない山頂部に、車輪代わりのヤギたちがかろうじて接地しています。おそらく次の瞬間にはもうジャンプしているんでしょう。族長は「これから高いところにいくぞ、秒速1マイルでね」とニモたちに声をかけ、フリップも「どうやらそのようだな!」と納得しています。ようやく。

 

 車は険しい山を駆け抜けていきます(その点、ヤギが車輪になっているのは正解かもしれません)。ですが、族長によれば「よし、じゃあこれから平らな地面でいいものをみせてあげよう」と言って、下山するつもりです。スピードをさらに上げるつもりでしょうか。

 

 フリップは、車が気に入ったのかこんなことを言ってます、「このマシン、いくらで売ってくれるんだい、族長さん?」。ニモは「こわくなってきたよー」と、変わらず。

 

 車は崖すれすれのところを猛然と下ってきます。左カーブなので、車は今度は徐々に右向きになっています。「さあ、ジャンプしてジャングルに入るぞ!」と族長が大声を出し、ニモとお姫さまが無言のなか、フリップは「おい、質問に答えろよ、いくらなんだよ」とさっきのつづきです。最初は「これが車なもんか」とか言ってたくせに、いまはもう、どうしても手に入れたいようです。これで族長が具体的な値段を提示したら、フリップはおそらく値切ってくるでしょう。

 

 9コマ目、族長が「5秒でジャングルをぬければ、船がいる浜辺につくぞ」と言いながら、一行は崖の上から落下してきます。これまでも何度もありましたが、「リトル・ニモ」お得意の、夢オチ直前の落下シーンですね。

 

 夢のなかでの落下というのは、なかなか着地しないもので、だからヤギたちの脚は大丈夫なのか、とか心配しなくてもいいのかな。カエルだって、さっきからずっとガァガァ鳴いてますが、じっさいにこんなことやってたら呼吸が大変ですよ。

 

 ところで最後のコマ、「わあ! ベッドが動いてると思った、夢かー」というニモの視線の先には、崖から落下中の車があります。自分の見た夢を思い出し、反芻しているのかもしれません。それと、ベッドサイズの自動車や、ベッド自体が乗り物になるというケースは、以後の「リトル・ニモ」にも出てきます。ニモだけでなく、ベッドもいっしょに夢の世界へといくわけです。