いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモとさらわれたフリップ

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 1907年7月7日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 車でジャングルをぬけ、動物たちの猛追をふりきったニモたちが、かれらを迎えにきた海軍兵たちの前にいます。ニモはもう車を降りていますね。フリップとお姫さまが「もどってこれてよかったぜ」「ほんとにね」と言いながら、いま車を降りようというところです。

 

 族長はニモたちがかわいいらしく、「この子たちを返さなくちゃならないなんて、わたしはとても悲しい」と、ニモたちとの別れを惜しんでいます。

 

 しかし海軍の司令官は「われらがモルフェウス王はこどもたちをサマー・パレスへと招待なさっている。あなたのところへはきっとまた来ますよ」と、残念に思う気持ちはわかるが王の望みに逆らうことはできないと告げています。まあしかたない。

 

 1・2コマ目は、左半分の茶色(砂浜、島民の肌)と、右半分の白(海軍の制服)がはっきりわかれていて、世界のちがいが端的にあらわれています。ニモとお姫さまは2コマ目でもう、移動を完了していますね。族長が「ああ、あの子たちが行ってしまうのがつらい。ずっといてくれればいいのに!」と嘆きながら、白い世界へと入ってしまったニモたちを見つめています。

 

 一方、族長の背後で、フリップはまだ車に取り残されたままです。族長が視線をニモたちのほうに向けているので、読者もニモたちのほうに注意が向きがちで、褐色の肌のこどもたちに囲まれたフリップを見つけるのにすこし時間がかかるような気がします。

 

 3コマ目で、ニモたちが舟に乗り込む段になっても、族長はフリップに気がついていません。あいかわらず「ここから行ってほしくないなあ」とつぶやくばかりです。ただ、海兵たちは、なにかちがうことに気づきはじめています。「あれ、3人だったよな」「3人だったはずだぞ」。しかし、司令官は「王女さま、お父上がすぐに会いたいとのことです、はやく行かなければ」とまわりを急かし、まもなく舟を出そうというところですね。

 

 4コマ目、舟が出ました。しかし、まだ砂浜が見えている段階で、早くも舟にフリップがいないことに気づきます。「フリップがいないぞ!」「舟を止めろ!」「フリップがいないですって?」「フリップはどこなの?」「島のこどもたちがフリップをさらっていったんです!」と、舟のうえで大騒ぎになっています。司令官も「あれを追うんだ! フリップを取り返さなくては!」と、舟の向きを変えるよう指示しています。

 

 同時に、族長もフリップのことに気づいたようです。画面奥に走り去る車を見て驚いている様子ですね。車は、族長の視線と、舟のうえではためく「モルフェウス」の三角の旗と、船全体の向きと、船員の視線と、いろいろなラインを集めた先の点に位置していて、読者も否応なく車に集中してしまいます。

 

 「ジャングルに入ったぞ!」「族長が追っていったけど...」「車に追いつきっこないよ!」「はやく! はやく行かなくちゃ!」と、舟のうえはなおもあわてています。司令官は機関士に「舟を飛ばしてくれ」と大声を出していて、機関士は「980ポンドの蒸気(pounds of steam)で動かしています!」と返答するんですが...どうなんですかこれ、とにかく全力でやってるという意味でいいのかな。圧力の単位とか、蒸気圧と速度の関係とか、まったくわからなくてすみません。

 

 夢からさめたニモは「フリップがさらわれたんだ、パパ」としょんぼりしています。パパは「フリップってだれだい? 夢を見てたんだね、ほら、起きる時間だよ」とニモに寄り添っています。パパかママはたぶん、部屋の外から「朝だぞ」と大声でニモを呼んだものの、返事がないので、パパが様子を見にきたのかな。そしたらニモが元気なくすわっていたんでしょうね。

 

 それにしても、フリップが連れ去られたことに対して、眠りの国の人間たちはみんなあわててました。以前は眠りの国からフリップを追い出そうとしていたのに、かれらはもう、フリップを大事な仲間だと認めているのかもしれない。フリップのキャラクター設定が、かつてよりも穏当なものになってきている印象があります。