いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットとブラックハンド

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 1905年10月18日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 男性が、ドクロマークの書かれた手紙をもっています。「ブラックハンドか?」と驚いている様子ですね。ブラックハンドとは、主に犯罪組織から送られてくる脅迫状のことです(Black Hand (extortion) - Wikipedia, the free encyclopedia)。

 

 男性の娘さんによれば「カッシュさんへ。500万ドルのご用意を。さもなければわれわれはあなたをニューヨーク市長にさせるしかない。本気ですよ! すぐに支払うように!」だそうです。500万ドル支払わないと市長にさせられるんですね。風変わりな脅迫状ですが、市長の座を望まないひともいますからね。

 

 カッシュさんは「わたしは1セントだって払う気はないぞ」といいながら、娘さんといっしょに外を歩いていますが、物陰からカッシュさんを覗いているひとがちらほら見えます。様子をうかがっているんでしょう。カッシュさんもそれに気づいているようです。3コマ目でも「わたしはだまされんからな」と強気ですが、街中で監視されているのは気味が悪く、「わたしとてもこわいわ」と不安になるお嬢さんの気持ちもわかります。

 

 監視の目は家のなかにもあらわれはじめました。カッシュさんがすわる椅子のすぐうしろにさえいます。カッシュさんは「ひとりでもつかまえられたらな」と悔しがっています。つかまえられそうなくらい近くにいるのにつかまえられないし、食事に集中できないし、精神的にキツそうですね。次のコマでは、寝室で執拗につきまとわれているところで、カッシュさんも「くっそ眠れんぞ!」とつらそうです。

 

 それでもカッシュさんは脅迫に屈しようとはせず、500万ドルを用意するそぶりを見せていないので、犯罪組織のひとがカッシュさんのもとを直接訪れました。「例の金をはやくもってこい、さもないとおまえを市長の椅子につかせるぞ、市庁舎行きだぞ、はやくしろ、わかったか?」。しかしカッシュさんは「ことわる!」と強気でいます。一方、娘さんは「払います! 払います、ああ、お父さん!」と泣いてしまいました。これまでのつらい日々を終わらせたいという思いでしょう。

 

 カッシュさんは走って逃げ出しました。あとから「行く手をはばめ!」「つかまえろ!」と何人かが追ってきます。さっそく男がカッシュさんの前にあらわれ、「とらえた!」といってかれの進路をふさいでいます。

 

 カッシュさんはあっけなくつかまり、手足と背中を抱えられてつれていかれます。「市長だぞ」「市庁舎までどのくらいだ」という声が聞こえます。そして、カッシュさんはめでたく「大ニューヨーク市長」と書かれた椅子にすわらされました。からだを縛られ、猿ぐつわまでされています。まるで死刑台ですね。むこうのほうでお嬢さんが「どうかお許しを!」とひざをついて懇願していますが、相手は「500万ドル出せば自由の身だ」と一点張りです。

 

 当時の市長はジョージ・マクレラン・ジュニア(George B. McClellan Jr. - Wikipedia, the free encyclopedia)というひとで、民主党所属だったようですが、この頃の民主党といえばやはり、ギャングとつるんでた政治組織タマニーホールを思い浮かべてしまいます。マクレラン市長もギャングに脅されて市長になってたりしたらおもしろいですね(おもしろくはないか)。