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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモとジャングル・インプ

眠りの国のリトル・ニモ

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 1907年7月21日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 アーチが縦横にびっしりとならんで、全体でひとつの壁になっている背景がまず目につきます。中央にはひときわ大きなアーチがあり、アーチのむこうに黄色いものが見えます。

 

 手前には、ニモとお姫さま、着替えおわったフリップ、そしてキャンディ諸島のこどもがいます。フリップが「よし、おまえのパパに会う準備はできたぜ。すぐに陸に上がるんだろ?」といってるうしろで、島のこどもがフリップを指さし、読者のほうをむいて笑いをこらえています。「似合ってないよね」と読者にいってるのかな。

 

 するとさっそく、キャンディ島のこどもはフリップの帽子をつかみとりました。いたずらせずにはいられないようですね。お姫さまはそれに気づかず「そうよ! ここはパパのサマーホームなの」と答えています。1コマ目とくらべて、ならんだアーチの間隔が広くなっていて、また船と岸辺との間隔は狭くなっています。

 

 3コマ目、船から岸への通路があらわれ、着岸の準備が整いました。通路に立っている海兵たちがなんか誇らしげです。お姫さまは「いままででいちばん美しい場所よ、きっと気に入るわ、ニモ!」とニモに話していて、ふたりとも岸にわたる通路の方をむき、画面左で起こっているいざこざには気づいていません。

 

 フリップは島のこどもをけり飛ばしてますね。「おまえには行儀ってものをおしえなくちゃならないようだな!」。キャンディ島のこどもも負けずに、次のコマでフリップの頭をぐいっと押しつけます。

 

 コマの外から(たぶん)お姫さまが「来てよフリップ、岸に降りるわよ、ああ、わたしとてもうれしいわ」と興奮気味ですが、フリップのほうは「こりゃ愉快なことが起こったもんだぜ、もう降りるってのによ」とこちらも別の意味で興奮してます。

 

 5コマ目、キャンディ島のこどもとフリップがものすごい回転をはじめました。どうしてこうなったんだ。目にもとまらぬ速さでもみ合っている、ということなんでしょうが、描線が明らかに円運動で、しかも読者から見て円のかたちになっています。芸の披露みたいになってる。

 

 お姫さまは「なにがあったの? やめてやめて! 止めてちょうだいニモ!」と大声を上げますが、ニモはあいかわらずなにもしゃべらず、驚きっぱなしです。うしろでは司令官が「やっぱりジャングル・インプ(Jungle Imp)とフリップが仲よくなるわけないか!」と、状況に驚きつつもあきれている感じですね。

 

 さて、キャンディ島のこどもはここで「ジャングル・インプ」という名を与えられています。ジャングル・インプといえば、マッケイが1903年に新聞『シンシナティ・インクワイアラー(Cincinnati Enquirer)』で連載していたマンガ「ジャングル・インプの物語」(Winsor McCay -- A Tale of the Jungle Imps by Felix Fiddle | Cartoon Research Library)がありました。当時、ジャングルのこどもというキャラクターは人気があったのかもしれません。文明化された西洋社会のしきたりなどおかまいなし、というふるまいが、読者には物珍しかったり、その野蛮さが笑いの種になったり、もしかしたら、痛快に映ったりしていたのでしょうか。

 

 それにしても、あらためて、背景のアーチのならびがすごいですね。わたしはなんとなく大友克洋が描くマンションを思い浮かべてしまいましたが、マッケイが描く建築物というのは本当に圧倒されます。

 

 4・5コマ目の、中央のアーチのむこうにドーム型天井の建物が見えているのも、堂々としています。シンメトリーなのが威厳ある雰囲気をかもし出しているのでしょうか。ラファエロの「アテネの学堂」のような感じがあります。そうした西洋文明に抱かれて、葉巻をふかしたヤクザとジャングル小僧があばれまわっているのを見るのはいいですね。