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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットと寝台列車

レアビット狂の夢

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 1905年10月21日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 男が列車に乗り込もうというところです。「寝台はもう準備できてるかい? すごく疲れたからベッドに入りたいんだ」「あなたの7番寝台はもう用意できていますよ」というやりとりがなされています。

 

 男は寝台で靴をぬぎながら「ふう、疲れたな。今夜は涼しくなるだろうから、あたらしい下着を着たほうがいいかな。いや、どうしようかな、やっぱり着なくてもいいかな」とひとりごとです。

 

 3コマ目、男はベッドに横になりました。ここから定点カメラで、黒地の背景と男の白いからだが最後までつづきます。男は「着ないことにしよう。これであたたかいよ。下着なしでも眠れそうだな。もしかしたら寝心地が悪いかもしれないが、ああ、でも、走る寝台列車のなかで眠るのは好きだな...」と、前のコマにつづきしゃべっています(あるいは声には出してないかもしれない)。ちょっと神経質そうなひとなのかな。

 

 「いや、やっぱり着よう。ちょっと寒いし。寒いのはいやだ」。落ちついて眠れませんね。男は枕のうえのバッグに手をのばして、5コマ目で裸になり、「こんなの着たことないな」といいながら、あたらしい下着に着替えはじめます。この下着は「ユニオン・アンダーウェア(union underwear)」、つまり上下がつながった下着で、男はこれを着慣れていないために、次のコマでは足を入れるべきところに腕を入れてしまってます。

 

 男は「最初に足だな」といって、8コマ目で下着に足を通すことに成功し、9コマ目では上半身にチャレンジです。頭を天井にぶつけて、星がいくつかとびちってますが、そこはあんまり気にしていないようです。

 

 10コマ目、様子がおかしいですね。足が三本ベッドにならんでいます。「なんかおかしいぞ、足がもう一本あるじゃないか」。ところが、男の次のことばは「ああ、いいんだこれで。忘れてたよ、足が二本しかないものと思っていた」というもので、ちょっと驚かされます。男は三本目の足を下着に入れはじめます。

 

 12コマ目では、腕が四本あります。「頭がおかしくなったかな、あわててしまって三本目の腕のことを忘れてたよ」。たしかに頭がおかしくなってますね。思うに、男はここでも天井に頭をぶつけているので、頭をぶつけるたびに手足が増えるのではないか。

 

 その後、男の手足はどんどん増え、男もさすがに怖くなって「乗務員さん! ああ! ムカデになってしまった! 来てくれ! たすけて!」と、大声で乗務員を呼んでいます。すべての腕をつかってカーテンを開けていて、手前には足が整然とつきだし、読者をぎょっとさせます。フリークス・ショーを思わせますね。

 

 夢オチ場面では、乗務員がそのカーテンをそっとあけて「呼びましたか?」と声をかけています。カーテンの隙間から「い、いや、なんでもないんだ。夢を見てたんだよ、もう大丈夫だから」と恥ずかしそうに答えています。

 

 直前のコマがカーテンをシャッとあけはなった場面なので、夢オチでカーテンがしずかにとじているのを見ると、なんかこう、よけいにこの男が感じていた恐怖がきわだつように思います。客室のなかでひとしれず苦しんでいたんだなあと。読者には見えませんが、汗びっしょりの男の姿が浮かびます。