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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットと23スキドゥ

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 1905年11月4日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。ちょうど111年前。

 

 ふたりの男性が立ち話です。「ああ、選挙じゃ賭けに負けたさ。忘れてくれりゃよかったのに」「忘れるもんかよ、おまえには責任をはたしてもらうぜ。ついてきな、化粧するから」。選挙とは市長選のことでしょう。だれが勝つかで、賭けが行われていたんですね。

 

 2コマ目、賭けに負けた男はさっそく風変わりな格好です。「なんだよこの化粧は。なにをさせようっていうんだい」「まあまあ、すぐ終わるから。もちろん賭けに負けた責任をとってもらうのさ、あれだけ自信たっぷりに勝つって言ってたんだからな」。この格好は、サーカスにでも登場しそうな、おめかししたサルですかね。

 

 ふたりは往来を歩きます。「さあ、フラットアイアンビルだ」と言う男は、賭けに勝ったほうですね。手回しオルガンを背負っています。そのそばを歩くのが賭けに負けたサルです。「なあ、やめようぜこれ。べつの方法で責任とるからさ、な、やめよう」とすでに逃げ腰ですが、わざわざサルっぽく歩いてますね、感心です。ふたりの姿は当時の典型的なストリートオルガン奏者でした(イエロー・キッドとカナル・グランデ - いたずらフィガロ)。

 

 オルガン奏者はサルをつれてフラットアイアンビルまでやってきて、サルにビルをのぼらせます。「さあ、のぼれ!」。どうやらこれが責任のとり方のようです。サルは従順にのぼりはじめます。周囲では「サルなの? ひと?」とか「あのサルすげえな」とかいう声が聞かれます。オルガン奏者は「そのままのぼるんだ! 気合い入れていけ!」と容赦ないですね。

 

 6コマ目、すでにとなりのビルの屋上付近までやってきたサルは「疲れたよ、下りるぞ」と言いますが、オルガン奏者は許しません。「のぼれ! おまえ、負けたらフラットアイアンビルの最上階までのぼって1ペニーとってくるって言ったんだからな」。なんで賭けでそんなこと言っちゃうかな...。ちなみにフラットアイアンビルは高さ87メートル、22階建てだそうです(Flatiron Building - Wikipedia)。

 

 サルはがんばってのぼりつづけ、ついに最上階にたどりつきます。地上からは「1ペニーもってこいよ、そうすりゃOKだ」というオルガン奏者の声。数十メートル下のはずですがはっきり聞こえてますね。

 

 サルは窓から中をのぞき込み、「1ペニーいただけませんか? 賭けに負けたもので」と、室内のひとに声をかけます。

 

 するとおばさんがほうきをもって身を乗り出しました。「1ペニーだと? サルめ、こっから出ていけ!(Skiddoo!) 厚かましいやつだまったく!」。サルはあわてて「サルじゃないんです、ひとです! 賭けに負けたんです!」と窓辺から離れました。いやもうすごい技術ですね。地上では「1ペニーとってこなけりゃおまえの負けだぞ!」と言ってます。ここでさらに負けたら、またなにかべつのことを、たぶんもっとひどいことをやらされるでしょう。

 

 ほうきをもったおばさんは「Skiddoo」と言ってサルを追い払うんですが、フラットアイアンビル周辺には「23スキドゥ」と呼ばれる連中がいました。このビルが立つ23番通りは風が強く、女性のスカートがめくれて足首があらわになり、それをのぞき見て楽しむ男どもが発生してたのですね。このどうしようもないやつらが「23スキドゥ」です(23 skidoo (phrase) - Wikipedia:ことばの由来には諸説あり)。警官がよく追い払っていたようで、そういえば3コマ目に警官がいます。

 

 10コマ目のおばさんは「こっち来んな!」と、サルをほうきで叩きつけようとします。まったく話が通じてないですね、警官より怖いかもしれない。サルはあきらめ、「ダメだ、飛び下りよう」とつぶやいています。心なしか、目の焦点が合っていないような...。

 

 「もうつかまってられないよ」と身を投げたサルは、気づいたらベッドから落ちているひとでした。自ら死を選ぶことでようやく曲芸と暴力の恐怖から解放されるというのは、ほんと悪夢ですね。