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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと高層ビル街

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 1907年9月22日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 ニモとジャングル・インプが真ん中に立っています。ふたりは巨人の姿です。前回、森に棲む巨人から逃げている途中で、いつのまにかかれらも巨人になってしまったのでした。フリップは森の巨人に捕らえられてしまって、ここにはいません。

 

 ニモとインプの周囲には、街の人々が大勢おしよせています。ニモの足下に警官たちが来たので、ニモは「ぼくたち道に迷ったんです! モルフェウス王の宮殿から来たんだけど、巨人がぼくたちのガイドを捕まえちゃって...」と訴えます。

 

 しかし警官たちはニモのことを知らないようで、「いや、この街を出てってくれないか、すぐにね、じゃないと逮捕しますよ」と冷たい反応です。群衆のなかからは「ガイドを捕まえた巨人とやらを見てみたいもんだね」とか「自分たちで巨人をなんとかしたらどうだい、あんたたちも十分大きいよ」とか聞こえてきます。

 

 ニモは、街の人たちの援助をあきらめたのか、「ここをのぼったら宮殿が見えるかな」と、近くのビルに手をかけます。警官はなおも「宮殿が見えたらできるだけすぐに出てってくれよ!」と声をかけていますが、ニモはしょんぼりもせず、がんばってビルをのぼりつづけます。フリップがいないので、自分が主体性を発揮しないと物語が進みません。

 

 ビル群は、うまい具合に階段のようにならんでいて、ニモはなんとかのぼりつづけることができます。とはいえニモから見れば自分の背丈ほどもある段差をのぼらなければいけないので、けっこうハードだとは思います。巨人になったことで筋肉も発達したんでしょうか。あるいは夢のなかなので重力が弱いとか。

 

 2コマ目から5コマ目にかけて、ニモはどんどんのぼります。ニモの紙面上の位置もすこしずつ上に置かれ、ニモの白いからだが右上がりに向かっているので、読者は視線を横に流すだけで「おっ、ニモがんばってるな」とわかります。

 

 それに呼応するように、ニモのセリフも「迷子になっちゃったな」「けどここをのぼれば、どのあたりかわかると思うんだ」「宮殿のひとに合図できるはずだよ」と、前向きなものです。

 

 しかし6コマ目、「うう、てっぺんはまだかなあ? 疲れてきちゃったよ」と弱気の発言が出てしまいます。そして次のコマで、ビルが無数に建ちならぶ透視図法的空間にやってきました。空間の奥にはビルしかなく、宮殿が見えるものと思ってがんばってきたニモは「ひゃあ、見えないよ! フリップがいてくれたらなあ!」と、先行きの見えなさにがっかりしてしまいます。

 

 インプは、5コマ目からずっと汗をかきっぱなしです。ジャングルにいた頃には見ることもなかった光景ですから、もしかしたらこの汗は体力的な問題というより精神的な不安を示しているものかもしれません。宮殿のなかではいろいろいたずらしていたインプですが、高層ビル街では緊張するのかな。あるいは、ひとがぜんぜんいなくなってしまった孤独がつらいのか。