レアビットとここはわたしが払いますから
1905年11月22日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。
「あなたはほんとうの友だちですよ、ぜひわたしの気持ちをわかっていただきたい...」「いやいやお気になさらず。あなたとはずっと友だちです。わたしが...」。ふたりの男性が意気投合していて、どうやらお互いに、カフェで飲み物をおごらせてほしいと思っているようです。
「何にしますか? 一杯どうぞ」「あなたに一杯ごちそうしますよ」と、ふたりとも同じことをいいながら着席して、ウェイターに「ハイボールを一杯ずつもってきてくれ」「そう、いいスコッチのやつをね、すぐに頼む」と同じ注文をしています。
その後も「いやもう、わたしの気持ちをわかってくださるかどうか...」「わたしだって、あなたをすばらしい人だと思うからこそこうしているのですよ...」と、ふたりともとにかく相手のことで感激していて、ごちそうしなけりゃ気がすまないといった感じです。
5コマ目、すでに瓶とグラスがいくつかテーブルに乗っていて、そろそろ支払いを、という段です。「ここはわたしが支払いますよ」「いや、わたしが払う。かれからは受け取らないでくれ」と、居酒屋あるあるですね。「わたしが注文したんですよ!」「いやちがう! あなたはお金を出さないで!」。
そのうち、ふたりの客はウェイターのまえで取っ組みあいをはじめます。「お金を出さないでくださいよ、ダメですよ!」「いやわたしが払うんだ、あなたはお金をしまっててくれ、わたしが払うよ!」「なんでですか! お金はポケットに入れててくださいよ!」「あなたに支払いはさせられないんだ!」
ウェイターからしてみればめんどくさいことになったわけですが、9コマ目ではさらに災難がふりかかっていて、店員は客たちに「じゃまをするな!」「ここから出ていけ! わたしたちの問題なんだ!」といわれながら顔を殴られてしまいます。このウェイター、なにか火に油を注いだようなんですが、なにをいったのかはわかりません。ふたりのあいだに割って入ったんでしょうね。かわいそうなことです。
というわけで、この夢を見ているのはウェイターでした。上司に「おい! 起きろ! ここで寝ちゃいかん。忙しいんだから」と起こされています。「すみませんボス、レアビット食べたらちょっとうたた寝しちゃって」。これからホールに出ていくのでしょう。めんどくさい客がいなければよいのですが。